創刊号からスタートした「男の買物」。各界の著名男性が、買いものにまつわるエピソードを披露するエッセイです。3回目に登場したのは、おヒョイさんの愛称で親しまれ、昨年惜しまれながら亡くなった藤村俊二さん(1934-2017)。
<日本はホントになんでもある国で、お金さえあれば、なんでも売ってくれます。でも、思い出は売ってくれません>
そう語る藤村さんが取りあげるのは、エジプトを旅したときに買った香水の素。クレオパトラをあしらった瓶が、いかにもエジプトみやげといった風情です。
道端には、観光客の気を引こうとあれやこれやとセールストークをするみやげもの売り。彼らが売っているのは、博物館にしかないはずの「謎のスカラベ」や、かみさんのぼろスカートを引きちぎったらしき「世界最古の布」などなど……。
そんな雑踏のなかでみつけたのが、この香水の素が入っているという瓶です。売り文句によれば、アルコールで9倍に薄めると、贅を尽くした名香「ジャン・パトゥ」ができあがるのだとか。そんな愉快で壮大なホラは、藤村さんにしてみれば<ザッツ・インチキテイメント>。かくしてはるばるエジプトから運ばれてきた香水は、使われずにただ部屋にただ置いてあるといいます。
旅の思い出が詰まった香水瓶。締めくくりの一文は、ダンディーと評判だった藤村さんらしい、大人の余裕を感じさせる買い物哲学です。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。