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『失われた貌(かお)』櫻田智也 著──文章世界で魅了する理想的な警察小説

文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。

文・瀧井朝世

『失われた貌』 櫻田智也 著 新潮社 1,980円
『失われた貌』 櫻田智也 著 新潮社 1,980円

そういえば警察小説が好きだった、と思い出させてくれた一冊。今年の年末の各ミステリランキングでも、きっと上位に入ってくると思う(入ってくれ!)。

J県警媛上警察署捜査係長、日野雪彦はある朝、山奥で男性の変死体が見つかったとの連絡を受ける。現場に向かって確認すると、故人は顔を潰され、手首から先を切断され、歯も抜かれて身元が分からない状態。日野は部下の入江とともに捜査に乗り出すが、他にもさまざまな出来事が相次いで起きる。地元新聞に投書された警察署への苦情、公園に現れた不審者、死体の第一発見者の家族の問題行動、死体の身元が十年前に失踪した父親ではないかと訴えてくる少年……。複数の出来事に同時に対応していく刑事の奮闘を追っていく内容だ。

こういう形式の警察小説を面白く読ませるには、いくつかポイントがあると思う。主人公の一人称文体にウィットがあること、会話文が活き活きしていること、警察関係者や容疑者含め登場人物がキャラクターとして魅力的なこと、見落としがちなところに事件解決の大きなヒントがあること……。本作はすべてクリアして、大満足だった。シリーズ化してほしい。

  • 瀧井朝世 さん (たきい・あさよ)

    ライター

    著書に『ほんのよもやま話〜作家対談集〜』『偏愛読書トライアングル』など。

『クロワッサン』1151号より

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