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『彼女たちの牙と舌』矢樹 純 著── 犯罪に巻き込まれたママ友たちの葛藤

文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。

文・瀧井朝世

『彼女たちの牙と舌』 矢樹 純 著 幻冬舎 1,870円
『彼女たちの牙と舌』 矢樹 純 著 幻冬舎 1,870円

母親たちをめぐる二転三転のミステリーである。

定期的に集まる4人の母親。参加者たちは生活環境も仕事もバラバラだが、同じ進学塾に通う中学受験を控えた子どもがいるという共通点があり、その情報交換のための集まりだ。

ある時、そのうちの一人が特殊詐欺グループと関わってしまい、なぜか他の母親にも脅迫メールが送られてくる。さらにはそのことに関連していると思われる殺人事件も発生する。

なんといっても子どもの受験が控える大事な時期、警察沙汰にはしたくない。彼女たちは協力しあって詐欺グループの罠から逃れようとするのだが──。

一章ごとに母親間で語り手が変わり、それぞれの家庭事情や経済事情、ママ友内での関係性など、意外な事実が見えてくる。場面転換と情報の小出しの上手さったら、もう! さすがである。ページをめくる手がとまらない。

特殊詐欺というと若い人が巻き込まれる犯罪と思っていたが、実際に主婦が加担してしまうケースもあるらしい。本作を読めば、守るものがある人ほど簡単には抜け出せなくなることが分かって心底怖い。みなさまご用心。

  • 瀧井朝世 さん (たきい・あさよ)

    ライター

    著書に『ほんのよもやま話〜作家対談集〜』『偏愛読書トライアングル』など。

『クロワッサン』1150号より

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