くらし

カメラマン・三東サイさんの、心を静寂に戻す男の厨房。

料理にまつわる仕事をしている男性たちの台所には、工夫と思想が詰まっていました。
  • 撮影・三東サイ 文・太田祐子

最高の写真を撮るため、心を静寂に戻す場所。

料理撮影を多く手掛ける三東サイさんにとって、家で料理を作り、食べることは撮影本番のための静かなる助走だ。

「撮影した料理が最高に美しく見えることが一番大事。それには僕自身が満たされすぎず、少し渇望を抱えているくらいがちょうどいい」

そのため、以前は撮影前に何も食べずにいたが、今はひと切れの黒パンと目玉焼きを食べて出かける。

「マットな黒パンは光を吸収して、とても撮影しにくい食材。一方の目玉焼きはつややかでシズル感もある。被写体として両極端なんです。その2つを焼きながら、光の様子を眺め、その日の撮影のことを考えたりしています」

都心の古いマンションの台所はコンパクトでクリーム色が基調。色の氾濫を避けるため、電子レンジやトースターは置かない。缶詰やビニール袋などの包装も目にうるさいので外し、見えない場所に収納。調味料や道具類も最低限のものがあればいい。とはいえ、必要だと感じることは積極的に取り入れる。

「仕事柄、教わることが多いんですよね。サラダに使う葉物野菜の水分はしっかり飛ばしたほうが断然おいしいから、水切りスピナーは欠かせないし。学ぶことが多いのはありがたいこと」

葉と芯を分けてゆっくりキャベツを千切りにするとき。洗い終わった鉄鍋を火にかけ、水滴が小さな音を立てて消えていくのを見つめるとき。

「そんな時間が大好きで。台所はざわざわした自分をフラットに、静寂に戻してくれる場所だと思っています」

ロッジ社の鉄鍋と片手坊主でほとんどの料理を作る。コンロは「"クロワッサンの店"のものを愛用していましたが、一度手放して今は後継機種を。火の微調整ができて使いやすいんですよ」

定番の朝食もためつすがめつ光を見ながら。

スペルト小麦の黒パンと目玉焼きを一緒に焼く。シズル感のある目玉焼きとマットな黒パンという対照的なモチーフを眺めて光の具合を思案し、当日の撮影に思いを馳せる。

冷蔵庫には、パッと食べられるタンパク質を常備。

小ぶりな冷蔵庫には、自家製のザワークラウト、煎り酒、豆乳、納豆、チーズ。琺瑯バットにイワシの梅煮。那覇の「王朝みそ」は温め直しても風味が消えずおいしい。

必要充分な道具類。シンク下に、まとめて収納。

奥は玄米を炊くフィスラーの圧力鍋。手前下の鉄鍋の蓋は平たいフライパンのように使えるのでとても重宝。お玉で味噌を溶くのが好きではないので、味噌こしは必需品。

樹脂製の植木鉢を 水栓に挟んで、スポンジ受けに。

ステンレスのスポンジ受けは目にちらつくし、汚れやすい。ならば、と考えたのが樹脂製のポットの用途転用。「下に穴も開いてて、水はけもいい。これだ!と思いましたね」

(お気に入りのひと皿)

「1/3量まで煮詰めたバルサミコ酢と蜂蜜を合わせてイチゴをマリネし、井原裕子さんの撮影(本誌1063号)で教わった、水切りヨーグルトを使ったサワークリームを添える。友人にも好評です」

三東サイ

三東サイ さん (さんとう・さい)

カメラマン

雑誌『オリーブ』のカメラ助手を経て独立。雑誌や書籍にて料理や手仕事の撮影を手掛け、著者、取材先の信頼も厚い。フリーの神主という一面も。

『クロワッサン』1067号より

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