料理撮影を多く手掛ける三東サイさんにとって、家で料理を作り、食べることは撮影本番のための静かなる助走だ。
「撮影した料理が最高に美しく見えることが一番大事。それには僕自身が満たされすぎず、少し渇望を抱えているくらいがちょうどいい」
そのため、以前は撮影前に何も食べずにいたが、今はひと切れの黒パンと目玉焼きを食べて出かける。
「マットな黒パンは光を吸収して、とても撮影しにくい食材。一方の目玉焼きはつややかでシズル感もある。被写体として両極端なんです。その2つを焼きながら、光の様子を眺め、その日の撮影のことを考えたりしています」
都心の古いマンションの台所はコンパクトでクリーム色が基調。色の氾濫を避けるため、電子レンジやトースターは置かない。缶詰やビニール袋などの包装も目にうるさいので外し、見えない場所に収納。調味料や道具類も最低限のものがあればいい。とはいえ、必要だと感じることは積極的に取り入れる。
「仕事柄、教わることが多いんですよね。サラダに使う葉物野菜の水分はしっかり飛ばしたほうが断然おいしいから、水切りスピナーは欠かせないし。学ぶことが多いのはありがたいこと」
葉と芯を分けてゆっくりキャベツを千切りにするとき。洗い終わった鉄鍋を火にかけ、水滴が小さな音を立てて消えていくのを見つめるとき。
「そんな時間が大好きで。台所はざわざわした自分をフラットに、静寂に戻してくれる場所だと思っています」