テレビ出演や大学の講義など、関西での仕事が多い宮崎哲弥さん。時間があると京都の街を歩くのを楽しみにしている。
「特に寺町通の京都らしい町並みが好きで、古書店や独特の棚ぞろえの新刊本屋『三月書房(さんがつしょぼう)』でよく本を選ぶのですが、そのはす向かいにあるのが『村上開新堂』。明治時代からある有名な菓子店で、クッキーの詰め合わせやゼリーなど昔ながらの西洋菓子が並ぶ中に、ある時このロシアケーキが目に留まったんです。ビジュアルはクッキーなのに、なぜ名称がケーキなんだろう?と気になって」
ロシアケーキは1930年代に東京・新宿中村屋に招かれたロシア人製菓技師が考案したとされる日本独自の焼き菓子。二度焼きしたクッキー生地にジャムやチョコレートなどがのっており、村上開新堂では1950年代に登場したという。
「試しに買ってみたらクッキーとは違う少しふんわりした食感で、どことなく懐かしさと素朴さがある。また、何度食べても飽きがこない。えも言われぬ魅力があるんです。これは手みやげにちょうどいいなと思い、頻繁に訪れては買い求めています。手にした方はたいがいこれを見て“えっ、これ、ケーキですか?”と不思議そうにしてます。私は“どうだろうねえ? まあ食べてみてくださいよ”って返す。そのやり取りも楽しい」
アプリコット、レーズン、ブドウジャムサンド、ゆずジャムサンド、チョコからなる味のうち、宮崎さんのお気に入りはブドウジャム。基本的にここでしか買えない、まさに京都ならではのお菓子だ。
「京都ってモダンな喫茶店やパン屋が多かったり、その一方でこってりしたラーメン屋が人気だったり、京料理のイメージとは異なる複雑な食文化が面白い。このロシアケーキもその典型ですよね。村上開新堂は包み紙が可愛いので(上写真)、ブックカバーにも利用しています」