おいしい朝ごはんの秘訣は前夜、
快適に眠ることから。
忙しい人ほどしっかりとりたい「朝ごはん」。作家の小川糸さんにおいしい朝ごはんを食べる一番の秘訣を聞きました。
「夫が朝食を作るようになったのは、『食堂かたつむり』が世に出て、書く仕事が忙しくなってからですね。朝から書いていてなかなか仕事を切り上げられないので、夫が待ちきれなくなって作りだしたみたいな感じです。最初は慣れなくて、2時間ぐらいかけて大変な思いをして作ってましたね(笑)。でもそのうちに冷蔵庫にあるもので作れるようになり、買い出しとかも気分転換になるし、料理の楽しさに目覚めたみたいです」
小川家の朝食の特徴は、1週間のうち6日は麺料理が食卓に上ること。
山形出身で元来そば好きの小川さんだが、東京生活で目覚めたのがうどんのおいしさ。中でもお気に入りは讃岐うどんの老舗、香川県高松市の上原屋本店の半生うどん。季節の寒暖に応じて5月ぐらいまでは釜揚げで、夏はみょうがやしそなどの薬味をのせ、おつゆを冷やしてぶっかけにして味わう。
「だしも夫が週に1回、昆布と鰹節で作ります。ボトルにストックして冷蔵庫に入れて日々の料理に使っています。夫は昆布と鰹節もこだわっていて、築地に買い出しにも行きますね。お店の人と仲よくなって店頭に出ていないものを売ってもらったり、おまけをしてもらったり、社交的な人なので喜んで行ってくれるんですよ」
麺つゆには、小川夫妻がぞっこんの鳥居醤油店(石川県七尾市)が伝統製法で作っている濃縮タイプの「だしつゆ」を愛用する。
「うちではこれを『能登だし』って呼んでいるんですけど、『能登だし』1に夫が引いただしを5の割合で作るのが、いままでいろいろやってみてベストかなって思います」
釜揚げは茹でるだけだし、だしと「だしつゆ」の分量も決まっているので、手間要らず。あとはこの麺つゆに、豚肉や舞茸や、冷蔵庫に残っているものを入れれば完成だ。朝ごはんのメニューは、前の晩の食事の後に冷蔵庫を見て夫と打ち合わせる。冷凍肉などを使う場合は小川さんが朝起きるとフリーザーから出しておく。
「おいしい朝ごはんを食べる一番の秘訣は、前の晩にいかに気持ちよく眠れるかなんです。気持ちよく寝られれば朝も気持ちよく起きられるので、そのサイクルを大事にしています」
そのために寝室には天井照明はつけず、敷布団は京都・俵屋旅館で使われているもので寝心地は満点だ。
「午後はカフェインを摂らないし、アルコールも頭が覚醒して眠りが浅くなってしまうので、金曜と土曜の夜以外、お酒は飲まないようにしています」平日の午後は愛犬のゆりねちゃんの散歩を1時間してから、夕方は徒歩30分ほどのところにあるスーパー銭湯に愛用の手ぬぐい持参で出かけていく。
「銭湯通いは私にとって一日をリセットする大切な時間です。露天風呂で夕暮れの空を眺めているときの解放感といったら! 心地よく眠るためにも欠かせない習慣なんです」
夕食は6時半。就寝は10時前。規則正しく淡々と送る毎日の暮らし方が何より大事と思っている。なかでも小川さんにとって一日で最も神聖な時間は夜明けのひと時。
「早朝は空気が澄んでいて、純粋無垢な気が流れているように思います。雑念が湧かず集中できるから、書く仕事は朝にしたいんですよね」
夏と冬で時間差はあるけれど、小川さんが目覚めるのはほぼ一年中、夜明け時。起きるとやかんに水を張り、薬草茶を煮出して飲む。それからゆりねちゃんの朝ごはんを作り、新聞を読んでからデスクに向かうのがルーティン。
「朝日が昇るときに起きているとラッキーな気分になるし、夜明け時の空って一瞬、すごくきれいな色になるときがあるんです。それを見ると、今日一日をとてもうまくスタートできるような気がするんです」
それから朝ごはんを食べるまでが、小説執筆に専念する時間です。
この朝型の生活スタイルが定着して、より快適に暮らせるようになった。
「『食堂かたつむり』の前のころは夜も書いていたし、不規則な生活をしていたので、全然朝型ではなかったんです。夫も夜型だったんですけど、朝早起きして仕事をしたほうが気持ちいいって言うようになって、最近は私より先に起きたりするんですよ」
夜明けとともに起き、日が沈んだら早めに寝る。自然の生活リズムを大切にしている小川さんならではの、とっておきの朝時間だ。
◎小川糸さん 作家/2008年に発表した小説『食堂かたつむり』でイタリアのバンカレッラ賞、フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞を受賞。最新刊は『ツバキ文具店』(幻冬舎)。
『クロワッサン』924号(2016年5月10日号)より
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