「CAFERING」代表・青木千秋さんの着物の時間──着物の日のジュエリー選びは、“着物自体の存在感を超えない”ことが鉄則
撮影・青木和義 ヘア&メイク・高松由佳 着付け・奥泉智恵 文・西端真矢 撮影協力・自由学園
着物もジュエリーデザインも軽やかな印象を大切にしています
「30代後半まで、着物は絶対に着ないと決めていたんです」
青木千秋さんに着物との関わりを訊ねると、そんな意外な答えが返ってきた。プラチナとダイヤをベースに、ビビッドなデザインで知られるジュエリーブランド「CAFERING」。その創業者であり、クリエイティブディレクターだ。着物を遠ざけていたのは幼い日の切ない思い出のせいだという。
「小学生の頃、お友だちと浴衣でお祭りに出かけたのですが、後から写真を見たら悲しくなってしまって。毎日外で遊び回っていたので、日焼けで真っ黒。髪が短かったこともあって、一人だけお猿さんみたいで。私は着物が似合わないんだと胸に刻み込まれました」
その傷は深く、成人式にも断固として振袖を拒否。洋服で参加したほどだった。
「でも、30代後半に入った頃、娘と一緒に浴衣を着たいと思うようになりました。髪をきれいにセットして、着付け師さんにきりっと着付けていただくと、そう似合わなくもないんじゃない?と。もう日焼けもしていませんしね(笑)。長い呪縛が解けていきました」
それからは毎夏浴衣を新調して、やがて数年後には着物へと世界を広げていった。お茶を習い、今では着物好きの友人と茶会や食事会、都をどり鑑賞に着物で繰り出す。その中で自身の好みもはっきりと像を結んでいった。
「古典柄がぎっしりと描かれた王道の着物はもちろん素晴らしいのですが、自分が着たいかというと少し違うと感じます。すっきりと軽やかなスタイルを好んでいます」
たとえば今日の一揃い。はっと目を引く明るいブルーの無地紬に、少し色調の違う淡いシャーベットグリーンの袋帯を合わせた。
「何といってもこの地色に惹かれて選んだ一枚です。絹独特の光沢に澄んだ発色が掛け合わされた絶妙なブルーだな、と。帯は伝統工芸の水引をモチーフに、モダンな曲線模様へと仕上げた意外性あるデザインが気に入っています。どちらも今は閉店してしまった『京都一加』で見つけました」
そんな軽やかなスタイルにちりばめるように、帯留め、指輪、イヤーカフ。自身がデザインしたジュエリーを身につける。そこには一つ、大切にしているポリシーがあるという。
「“着物の邪魔をしないこと”を常に心がけています。たとえば帯留め使いしたブローチは金木犀モチーフの個性的なデザインですが、プラチナをベースにしているため、目立ち過ぎることはありません。折角身につけるのだから、何の印象も残さないのではつまらない。存在感を放ちながら、でも、着物自体の存在感は超えないように。細やかな調和の感覚を大切にしています」
そしてもう一つ心がけているのが、
「着付けと髪に手を抜かないこと。紬だから、浴衣だから、フォーマルではないから自然体で良いわけではなく、着付けと髪をしっかり突き詰めなければ、着物は本当には美しく見えないのではないでしょうか。私はどちらにもまだ自信がないから、必ずプロの手を借りています。要所は押さえつつ、軽やかに。そんなポリシーで着物を楽しんでいます」
『クロワッサン』1149号より
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