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ホルモン補充療法って卵巣を甘やかしてしまうことになりませんか。【87歳の現役婦人科医師 Dr.野末の女性ホルモン講座】

  • イラストレーション・小迎裕美子 撮影・岩本慶三 構成・越川典子
野末悦子さん 産婦人科医師、久地診療所婦人科医

Q.ホルモン補充療法って卵巣を甘やかしてしまうことになりませんか。

野末先生、はじめまして。年齢的にそろそろ私も更年期。症状が出始めたらホルモン補充療法(HRT)を考えてみようと思っています。始めるタイミングを教えていただきたいのと、ホルモンを補充することで、本来の卵巣の働きをとめてしまうというか、甘やかしてしまうことにならないか心配です。また、HRTを始めると太ると聞いたことがありますが、本当でしょうか。(C・Tさん 48歳 公務員)

A.卵巣の機能は、何歳でも鍛えられる筋肉とは違います。

お便り、ありがとうございます。C・Tさんのように、HRTという手段があることを知っていると、いざカラダが変化してきたときに大きな力になりますね。

さて、HRTでエストロゲンを補充することで、卵巣を「甘やかす」のではないかという疑問について。たしかに、歩かなければ脚が衰えるように、筋肉などは、何歳になっても鍛えれば強くすることができます。でも、卵巣の機能は鍛えれば強くなるというわけではありません。

更年期にカラダの中で何が起きているのか、お話ししましょうね。

下の図を見てください。

【更年期症状が起きるメカニズム】

卵巣機能が低下すると、視床下部にある自律神経系が乱れ、ホットフラッシュや動悸、手足の冷えなど更年期特有の症状が引き起こされる。

卵巣機能が衰えてくると、もっとエストロゲンを出すよう、ホルモンの司令塔である視床下部の指令により、下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌されます。でも、実際はうまく分泌できないので混乱が起きてしまいます。視床下部は自律神経系の中枢でもあるので、体温や呼吸のコントロールを失い、ホットフラッシュなどの症状が出るのです。

治療前には必ず血液検査をしますが、エストロゲンの数値だけではなく、FSH値も調べるのは、そうした理由からです。次第に卵巣の機能が衰えていき、卵胞がなくなるとともに、その働き、使命を終えることになります。

つまり、もともと女性のカラダにあったエストロゲンを少しだけ補充することで、閉経後のカラダの変化を緩やかにしようというのがHRTの目的なのです。甘やかすという発想は見当違いだとわかっていただけたでしょうか。

もしHRTを始めたことで急に体重が増えたとしたら、体調がよくなったことで食欲が出てきたと考えられます。むくみが出たことを「太った」と感じる人もいるかもしれません。ほかにも、乳房が張ったり、出血したりする場合もありますが、HRTを続けて1、2カ月もすると、次第に落ち着いてくるので心配はいりません。

太ることを心配する人がいる一方、痩せてしまう人もいます。いずれにせよ、更年期はカラダの変化が大きいとき。治療だけでなく、運動習慣や食事内容を見直す必要があります。

※症状や治療法には個人差があります。必ず専門医にご相談ください。

更年期は、自分のカラダを見直すいいチャンスです。(Dr.野末)

野末悦子(のずえ・えつこ)●産婦人科医師、久地診療所婦人科医。横浜市立大学医学部卒業。川崎協同病院副院長、コスモス女性クリニック院長、介護老人保健施設「樹の丘」施設長などをへて現職。

『クロワッサン』1007号より

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