『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子さん|本を読んで、会いたくなって。 | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン
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『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子さん|本を読んで、会いたくなって。

老年の孤独を、肯定したかった。

わかたけ・ちさこ●1954年、岩手県生まれ。子どもの頃から小説家を夢見ており、大人になってからは河合隼雄や上野千鶴子の本を好んで読んでいた。8年前に夫が他界し、息子の勧めで小説講座に通い始める。本作で第54回文藝賞を受賞した。

撮影・森山祐子

63歳にして念願の作家デビューを果たした、主婦の若竹千佐子さん。ずっと興味があったという「おばあさんの生き方」を真正面から描き、第54回文藝賞を受賞した。

「夫に仕えて子どもを産み育て、ほとんどの役割を終えたおばあさんって、すごく自由だと思うんですよね。こうでなければならないという規範が全て取り払われて、素の自分が現れる。その時に何を思うのか、知りたかったんです」

主人公は、東京オリンピックの年に故郷の東北から上京し、結婚して娘と息子を育て上げ、夫を看取った74歳の桃子さん。一人になったある日、脳内から、東北弁の声が湧き上がる。「どうすっぺぇ、この先ひとりで、何如にすべかぁ」「だいじょぶだ、おめには、おらがついでっから」と、「大勢の桃子さん」が会話を始めるのだ。

「危機に直面して、内側に潜む自分、別の個性が飛び出してくることってありますよね。私自身、夫を亡くした時に『頑張れ』って励ます声が聞こえてきて……」

桃子さんのモノローグを中心に物語は進み、ふと気づく。夫の死を喜んでいる自分がいる、と。

「その感情はある種タブーで、認めちゃいけないって自分に枷をかけている人も多い。でも、私ね、夫の死の悲しみに暮れてしばらくした後、この時間でも夕飯を作らなくていい、いつでも本を読める、24時間自分のために使っていいんだって解放感がありました。家族の”副班長”の務めを終えて、誰のためでもない私の人生を生き直すんだって思うことは、決して悪いことじゃないはずです」

そして桃子さんは、自分と対話しながら孤独と向き合っていく。

「今は”ぼっち”なんて言われますけど、一人になる時間はとても大事だし、きっと桃子さんは、自分の中にいろんなものを見つけるのが本当に楽しいんです。それをなんとか肯定してあげたかった。それと、夫のいる世界、目に見えない非合理な世界を求めたい、という宗教性の気づきみたいなものも描きたかったんです」

ともすると青春時代よりも長いかもしれない老年を、どう生きるか。吹っ切れ感とユーモアが入り交じった「老いの境地」は、どこか若々しく、清々しい。若竹さんに、新人の登竜門と言われる文藝賞を受賞した感想を聞いてみた。

「63歳で新人とは、なんとも胸弾みます。娘の時代、妻の時代を経て、これからの私は一人生きる時代。チャンスをもらったので、もうちょっと頑張ろうと思います」

河出書房新社 1,200円

『クロワッサン』966号より

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