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『わたしの本棚』中江有里さん|本を読んで、会いたくなって。

本は私にとって “慰め” でした。

なかえ・ゆり●1973年、大阪生まれ。女優、作家。’89年、芸能界デビュー、’02年、NHK大阪主催のBKラジオドラマ脚本賞入選。NHK BS2『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。著書に『ティンホイッスル』『ホンのひととき』など。

撮影・青木和義

本好きな女優・中江有里さんによる書評集。そんな軽い気持ちで読み始めると不意打ちをくらう。

最初に語られるのは、自身の家のこと。幼くして両親が離婚し、自らの意思で母のそばにいることを選んだ中江さんは、転校した先の小学校で『家なき子』を手に取る。生きていくためには何が必要か。何もできない今の自分という存在。絵空事ではなく現実を突きつけてくる本との出合いだった。その『家なき子』を皮切りに『倚りかからず』『わたしを離さないで』など、人生の折々に出合い、大きな示唆を与えてくれた24冊の本のことが当時の思いとともに綴られる。

「本の紹介は様々な場所や媒体で行ってきましたが、個人的な体験をふまえて書くことはすごく大変でした。そのときの自分に立ち返るとすごく苦しい気持ちになって。悲しいこともつらいこともたくさんありましたから。でも、不思議と書き終えると心が浄化される感じもあった。『ああ、大変だったけど、よくくぐり抜けてきたね』と親のような気持ちで(笑)」

母親さえ心配するほど内向的で、ほとんど喋らなかった子ども時代。中学生になってからはいじめも経験した。人生を変えたくて飛び込んだ芸能界でも悩みはつきない。

「その救いになったのが本でした。本を読む動機は人それぞれですが、私には慰め。自分を慰めるための読書だったんですよね。読むことで一瞬が救われる。その繰り返しが私を支えてくれたんです」

また、書くことも中江さんにとっては大切な表現手段だった。

「子どもの頃は人に何か伝える、言葉に出すことが下手だった。だから書いて言葉にするほうがうまく伝えられると思っていました」

アイドルから女優へ。事務所からの独立、脚本家としてのチャレンジ。本の仕事が増え、文学についての体系的な知識が欲しいと、35歳を過ぎて大学で日本文学を専攻した。本はいつも中江さんの傍らにあった。

「不思議なんですけど、偶然のようでどこか必然的。自分が悩んでいることとリンクする本に出合うのは、たぶん求めているからなんだろうなと思います。求めているからこそ光があたる。私にはそれが本という存在だけれど、人によっては映画だったり演劇だったりするのではないでしょうか。自分を励まして、支えてくれるもの。それは人が創り出すものだから、誰かに支えられているということでもある。これまで一人で生きてきたような顔をしてても実はそんなことはないし、そう強くもないんだなって改めて思いますね(笑)」

PHP研究所 1,400円

『クロワッサン』964号より

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