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『新聞記者』望月衣塑子さん|本を読んで、会いたくなって。

隠そうとされている真実に、光を当てたい。

もちづき・いそこ●1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。2004年には日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープ、2017年2月以降は森友・加計問題を取材。二児の母。著書に『武器輸出と日本企業』(角川新書)など。

撮影・森山祐子

今年の6月8日。首相官邸での菅義偉官房長官の会見で、果敢に質問を投げかけ続ける女性の姿が話題になった。東京新聞記者の望月衣塑子さんだ。本書は、この会見前後の出来事や心境を中心に、望月さんの幼少期から新聞記者としての歩みまでを綴ったもの。

件の会見で、彼女はいわゆる「加計」疑惑などに関連して実に23回の質問を重ね、空気を一変させた。

「私は政治部ではなく、事件・事故を扱う社会部の記者なので、本来は官邸の会見に出る立場じゃないんです。刑事や検事を相手にする社会部的な感覚で、矢継ぎ早に質問する私のやり方は、あの場では異様だったようです(笑)」

社会部にいながら政治に切り込んでいくきっかけになったのは、武器輸出の問題の取材だった。

「2014年に安倍政権によって実質的に武器の輸出入が解禁されたことで、日本という国のあり方が大きく変わっていく、という漠然とした不安を感じるように。そこへ持ってきて、森友・加計疑惑。安倍一強の中で歪められていく政治への不信感が増していきました」

今年2月、社内の森友・加計取材チームに加わった。会見で注目されたことでバッシングも受けたが、追及の手は緩めなかった。

「応援してくれる記者仲間もいたし、何より読者からの『よくぞ聞いてくれた』という声が予想以上に大きかった。ネットが盛んな今、世の中がオールドメディアに不信感を抱く理由のひとつは、しがらみによる追及の甘さにあったんだと実感し、改めて、ほかにいないなら私が聞かなきゃと思いました」

会見に先立ち望月さんが取材していたのは、加計疑惑のキーパーソン、前川喜平前文科省事務次官。そして、当時顔出しで準強姦被害を訴えていたジャーナリストの伊藤詩織さんだ。この件について、「安倍総理の腹心ともいわれていた男性ジャーナリストへの逮捕状の執行が直前で不可解に差し止められた」と望月さん。

本書では、望月さんが二人の告発を受けて政治の中枢への疑念を深め、追及に至る経緯が記され、読者は記者の仕事を目の当たりにすることに。取材対象者の思いを背負う覚悟がひしひしと伝わってくる。

「スクープよりも、政治家が隠そうとする真実や、性的被害など社会の中で取りこぼされてしまう問題に光を当てたい。それによって社会の体制をよりよい方向へ変えていくことこそ、メディアの役割だと思います」

翻って受け取る側の私たちも、問題意識を持って考えることを求められているのかもしれない。

角川新書 800円

『クロワッサン』963号より

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