「小説って、時間と場所を自由に行き来できるんです。なおかつ、登場人物に入り込むように体感できるのがおもしろい。描いた人生の一片を一緒に生きたように感じてくれたらうれしいです」
まさに、隣に住むおばあさん、近所の飲食店の店主など、老若男女、時代も異なるたくさんの市井の人々を見つめる視線が温かく、なにげない日常から察せられる人生がどれも愛しく感じられる。
「それぞれをあらすじ的に説明してしまうとよくある話かもしれないけれど、その人にとっては切実なことなんですよね。ちょっとした一言が岐路になることもあるし、何かを言わなかったことが岐路になることも。ささいな出来事を何十年経っても思い出すかもしれない。スペシャルではないけれど、ひとりのかけがえのないその人しか体験していない人生を誰もが持っていて、それを抱えて生きているということを、実感したいと思うんです」