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『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』野瀬奈津子さん/松岡宏大さん|本を読んで、会いたくなって。

地に足がついた働き方を先取りする出版社。

のせ・なつこ(左/編集者、ライター)、まつおか・こうだい(右/カメラマン、ライター、編集者)●二人はKILAS(カイラス)のユニット名でも活動、著書に『持ち帰りたいインド』(誠文堂新光社)が。今回は装丁家・矢萩多聞さんを加えた3人の共著となる。

撮影・尾嶝 太

社員数30名にも満たないインドの小さな出版社が、いま世界の注目を集めている。その名もタラブックス。「タラ」とはインドの言葉で「星」を意味するそうだ。

「有名なのは手漉きの紙にシルクスクリーンで印刷し、製本まで職人が手がけるハンドメイドの絵本。『夜の木』は世界中の言語に翻訳されて80万部以上も売れています。もちろん通常のオフセット印刷の本もあれば、最近はリトグラフにもトライしているんです」

野瀬奈津子さんが、持参したさまざまな本を見せてくれた。どれも洗練されたデザインで、色使いに深みがあり、絵本といっても大人でも楽しめる内容だ。

「『夜の木』はゴンドというインド中部に暮らす少数民族の神話を題材にしていながら、人類の深層心理にまで届くような物語性、普遍性があります。だから世界中で受け入れられているんでしょうね」

ゴンドの村を訪ねて取材した松岡宏大さんは話す。こうしたクリエイティブな側面はタラブックスの特筆すべき点だが、この出版社をさらに特別なものにしているのは、彼らの働き方、会社としてのあり方だ、と二人は口を揃える。

「経営者である二人の女性は、いいものを丁寧に作るという、シンプルでブレない考え方を持っています。もっと設備投資をして社員を増やせば、もっと利益を上げることは可能でしょう。でもタラブックスはあえてそれをしない。目が行き届く程度に小さくあることを大事にしています」(野瀬さん)

「生活を犠牲にして朝から晩まで働くようなことはしない。本作りもすごいスローペース。企画の段階から何度もミーティングし、試行錯誤をしながら進めていく。だから僕らもこの本をゆっくり作ろうねって言ってたら、3年もかかっちゃった(笑)」(松岡さん)

タラブックスには編集者、デザイナーから印刷工、警備や掃除をする人などさまざまな職種の人が働いている。そのひとりひとりがお互いの仕事に敬意を払いつつ、平等を意識して働いているという。

「経営者の一人V・ギータは『小さな会社だから、取るに足らないことをしていると思わせる余裕はない』と言います。一冊の本をみんなで作っているという感覚、自分もこの一部であるということを社員に実感してほしいという意味だと思うんです」(野瀬さん)

「この本はものづくり、特に出版に携わる人たちにぜひ読んでほしい。3・11以来、地に足をつけて仕事をしていこうという人が増えていますが、タラブックスはその思想を先取りしていると思います」

玄光社 2,200円

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