「杉村さんは89歳になられてましたが、全国各地で舞台を1カ月近く行い、主役を張っている。さらに僕がその舞台を見て驚いたのは、観客の視線が杉村春子一点に注がれていること。それを引きつけるだけ引きつけてから、最後は満場の拍手をもらう。こんなすごい人がいるんだと」
1997年、91歳で杉村さんは亡くなる。番組は実現せず、川良さんは喪失感を覚えるなか、遺族から杉村さんの自宅を見せてもらう。そこで目にしたのが1500通に及ぶ手紙だった。
「部屋の撮影を許されて居間に入ると、壁伝いに紙袋が並んでいてすべて手紙が詰まっている。その中には杉村さんの舞台を楽しみにしていた人との長年の書簡もあった。これを題材にドキュメンタリーができると思ったんです」