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『デザインの仕事』寄藤文平さん|本を読んで、会いたくなって。

ふとした時に思考のヒントが見つかる本に。

よりふじ・ぶんぺい●1973年、長野県生まれ。2000年、広告やプロジェクトのアートディレクション、ブックデザインを手がける「文平銀座」を設立。著書に『死にカタログ』(大和書房)、『ラクガキ・マスター』(美術出版社)など。

撮影・岩本慶三

JT「大人たばこ養成講座」や東京メトロ「家でやろう。」の広告、ベストセラー書籍『人生はニャンとかなる!』の装丁といえば、一度は目にしたことがあるという人が多いのでは。本書は、これらを手がけるグラフィックデザイナーの寄藤文平さんが、デザインの仕事にまつわる経験や考え方をまとめたもの。インタビュアー木村俊介さんの聞き書きによる一冊だ。

「その時どきで考えたことを喋った本なので……まとめる木村さんは大変だったと思います。世の中が大きく変わっているいま、僕の知見が次の世代の役に立つとは全然考えていなくて。ただ、仕事に対する姿勢みたいなものは伝わればいいなぁと。だから、デザインの教科書ではなく、物事を考えるための資料のように使ってもらえたらうれしいです」

次々に明かされる本や広告の誕生秘話は新鮮な驚きに満ちていて、中でもブックデザインを語った章は本好き必見。丁寧な原稿の分析から装丁に入る手法は興味深い。

「極論を言えば、タイトルさえもらえれば表紙のデザインはできるけど、僕の場合、それが “どうありたい” 本かを知ることが重要。だからきちんと原稿を読むことが必須なんです。例えば、貧困問題を告発したい本なら断言調の強いデザインのほうがいいし、著者の逡巡が温かみにつながるようなエッセイならその曖昧なニュアンスにマッチする柔らかいデザインがいい。それを掴んだら、タイトルの大きさや、絵や写真を入れるかということが決まってくるわけです」

さらに「その本が “あるべき世界” を想像する」と、自然と装丁の方針が定まってくるという。本書の場合はどうだろうか?

「この本はトイレか風呂(笑)、それか鞄の中に入れておきたいかな。考え事をしている時にふと取り出して、適当にページをめくると思考のヒントが見つかる、みたいな。だからソフトカバーで、文字組みはギュッと詰めたものにしました」

ほかにも、「売れる本はタイトルがでかい」「時には綺麗に整えすぎない」「考えを『待つ』時間が八割」など、体験的仕事論が満載。

そして、本書の中でも示唆する「デザイン業界の未来」を見据え、今年、寄藤さんは新たな事業を立ち上げたという。

「『一枚工房』という会社で、一枚の大きな紙を新たなメディアとしてその中でどこまで表現できるか、可能性を探る取り組みです」

「デザインの仕事」の次なる局面、今後がますます楽しみだ。

講談社 1,300円
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