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『母さん、ごめん。』松浦晋也さん|本を読んで、会いたくなって。

老いていく親は、近未来の自分なんです。

まつうら・しんや●1962年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。日経BP社の記者として宇宙開発の取材に従事した後フリーに。著書に『小惑星探査機「はやぶさ」大図鑑』(共著・偕成社)、『のりもの進化論』(太田出版)など。

撮影・千田彩子

同居している母親の様子がなんだかおかしい。「預金通帳が見つからない」と言う。探してみるとちゃんとある。しかし、生活費2カ月分という大金が一気に引き出されていて、何に使ったのか覚えていない。掃除を面倒がるようになり、食事も卵かけ御飯だけ、と手抜きになってきた。

松浦晋也さんが母親の異変に気付いたのは、いまから約3年前のこと。おかしいなとは思いつつも、「年齢なりのうっかり」だと思い込もうとしたのだが──。本書は、独身男性がアルツハイマー病と診断された母親と共に暮らし、悪戦苦闘をしながら今年1月にグループホームに送るまでの日々を綴った介護ノンフィクションだ。

「大人二人が同じ屋根の下に住んでいるというだけで、母のことは何もわかっていませんでした。太極拳や水泳を習っていて、それなりに身体には気をつけていた人だから、老化に伴う変化についても意識したことはなかったんです」

自分の身の回りのことができなくなった母の代わりに衣替えをしたり、新たな下着を買ったりしなくてはいけない事態にあわてふためいた。そもそも、フリーのノンフィクションライターである松浦さんは日頃から取材や執筆に忙しく、母の生活ぶりをじっくり観察したことなどなかったのだ。

「父は、13年前にがんで亡くなりましたが、余命がわかった時点で書斎を片づけ、友人たちに会いに行き、やるべきことは全部やって意思的に締めくくったという感じでした。最期まで頭もはっきりとしていて母とはある意味対照的でしたね」

松浦さんにとって初めての介護。知識不足からひとりで問題を抱えてしまい、ストレスから自身の身体や精神にも変調をきたした。しかし、弟と妹のサポート、介護のプロであるヘルパーさんのアドバイスや公的な介護サービスを受けることによって少しずつステップを上がっていく。

「やってみてわかったことは、自分のキャパシティを超えてしまって手に負えないと、鬱にも介護殺人にもなりうるということです。

優しさは “余裕” と等価。自分に余裕がないと人に優しくなれない」

誰でも認知症になる可能性がある。日本が抱える介護問題もますます肥大化しそうだ。

「経済の担い手でもある人が仕事を辞めて介護一辺倒になれば、国の経済がしぼんでいきます。老人を見守っていく社会的システムを早急に考えることが必要ですね」

日経BP社 1,300円

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