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『若葉の宿』中村理聖さん|本を読んで、会いたくなって。

言葉にできないモヤモヤを、作品で整理する。

なかむら・りさと●1986年、福井県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。高校生のときに小説を書き始め、社会人になって本格的に執筆を開始。2014年『砂漠の青がとける夜』で第27回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。

撮影・青木和義

京都の町家旅館を舞台に、母親が失踪し、祖父母に育てられた娘・若葉の揺れる心情を描いた小説『若葉の宿』。中村理聖さんの「小説すばる新人賞」受賞第一作は、綿密な取材からなる京都のリアルな生活と若者の心情が、繊細に描写されている。

「福井出身の私が社会人になってから住み始めた街・京都。伝統と四季の移ろいを大切にする、大好きな街です。この作品を書くにあたり、実家が町家旅館を経営している友人や、知人の紹介で祇園祭に携わっている人などに取材させてもらいました。京都は紹介の文化が根強い街。関係性や立場をわきまえれば、中のことも親切にいろいろ教えてくれるんです。季節によって旅館の料理や生け花、着物などの描写を基点に、京都の人の祭りにかける思いや温かさを、細かく描けたかと思います」

さて、主人公の若葉は天真爛漫なフレッシュさはなく、いつも後ろ向き。

高校時代はいじめにあい、家でも修業先の老舗旅館でも、叱られてばかりだ。しかも叱られて奮起するのではなく、「でも、うちがどん臭くてのろまやから……」と諦めの姿勢で物事と向かい合う。若者ならではの厭世観に苛立ちを覚えながら、なぜかだんだん若葉を応援してしまう。

「私も、どうしても若葉のことは憎めない。似ているところが多いからかもしれません。読者の方も、若葉に自分の一部を当てはめて感情移入するからこそ、愛してくださるのかも」

対して舞妓である中学時代の親友や修業先の板前見習いの男性は前向きで情熱にあふれている。若葉は彼らの影響や周りの変化によって、ゆっくり自分がやりたいことを自覚し、決心を固めてゆく。

現在、平日は出版社勤務、休日は作家と、二足の草鞋を履く生活を送っている中村さん。両立に苦労することはないのだろうか。

「私にとって書く行為は、自分の気持ちを整理することに繋がります。家族に『悩むのが趣味なのか』と言われるほどに、幼いころから人の言動を分析してしまう。それが執筆活動に活かされている部分も大きいと思いますが。思いをうまく表現することができないフラストレーションを、書くことによって解消しているところがあるんです。最近は、自分とは違う職業や立場の人に出会うと、書きたい! と思うようになってきました。私にとっての執筆がすこし変化してきたのかも」

31歳、新人作家の中村さんが、これからの作品でどのような成長を見せるのか、楽しみだ。

集英社 1,600円

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