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『世界の産声に耳を澄ます』石井光太さん|本を読んで、会いたくなって。

親は子どもに、無条件の希望を託すもの。

いしい・こうた●1977年、東京生まれ。ノンフィクションを中心に幅広く執筆活動を行う。著書にノンフィクション『物乞う仏陀』(文藝春秋)、小説『蛍の森』(新潮社)、児童書『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。』(ポプラ社)などがある。

撮影・森山祐子

世界、とりわけ劣悪な環境で生きる途上国の人々は、どのようにしてお産や育児をしているのか。

ノンフィクション作家の石井光太さんは、自身が親になったことをきっかけにそんな疑問を抱き、世界の親子を巡る旅に出た。

「子どもが生まれてしばらく経つまで、僕は父親としての自覚が全くありませんでした。ところが妻は違った。出産直後、痛みも疲れも忘れて子どもに語りかける言葉や表情に、母親としての底知れない愛情を感じたんです。そこから、母親になるって、子どもが生まれるってどういうことだろう? と考えるようになりました」

本書では、ミャンマーにホンジュラス、ヨルダンなど9カ国で石井さんが見たお産や育児の現場が描かれる。これまでも貧困や紛争をテーマに世界を取材してきたが、 “親子” という目線を持つことで違った景色が見えてきた。

「例えば、ミャンマーの首長族が貧困の中で子育てすることはとても大変で、10人中3、4人が幼児期までに亡くなるということは、事実としては知っていました。けれど、子どもを生かすために不作の村を捨て、森を切り開いて新しい村を築いたり、子どもの最良の人生のために自分が見世物になって金を稼いだり。そういう親がいることやその心情には、これまで目を向けていませんでした」

取材前の予想や仮定が大きく覆されることも少なくなかった。

「エイズ大国のスワジランドでは、エイズ孤児を救う社会のシステムがある程度機能しているんだろうと考えて取材に行ったけれど、実際はそこがうまくいっていなくてつらい思いをしている子どもがいた。でも、僕はそういうふうに自分が裏切られたことこそ書くべきだと思うんです。それが現実の芯のようなものだから」

過酷な現実を前にして痛感したのは、日本の子育てがいかに恵まれているかということ。

「だからこそ、今あるものの何を大切にして、どこを補えば日本の育児がより良くなるのかも考えなきゃいけないと思いました。待機児童を減らすとか保育園を増やすとか、システムの議論になりがちですが、子どもの目線に立ったときに必ずしもそれが重要かはわからない。その辺のことは僕自身まだ答えが出せていません」

親が子を思う気持ちは万国共通、その根底にあるのは「無条件の希望」だと石井さんは言う。世界中で貧困や紛争に苦しんでいるのは、自分と同じ親であり、子である。そんな気持ちで、遠い国の事情に思いを馳せてみてほしい。

朝日新聞出版 1,500円

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