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『路地裏の民主主義』平川克美さん|本を読んで、会いたくなって。

矛盾は矛盾のまま、行くところまで行く。

ひらかわ・かつみ●1950年、東京都生まれ。実業家、著述家。ラジオカフェ代表。2014年3月より『隣町珈琲』を開く。『小商いのすすめ』(ミシマ社)、『経済成長という病』(講談社現代新書)、『移行期的混乱』(ちくま文庫)など著書多数。

撮影・新井孝明

生まれた町に帰ってきて喫茶店を開いて3年になる。

「いかに喫茶店が儲からないのか、よくわかりましたよ」

平川克美さんは笑って、かつての喫茶店文化を懐かしむ。

「青春時代、何を生み出すわけでもない会話をする、 “だべる” 場としての喫茶店で結局は大切なことを学んでいたんですね。SNSが発達した今こそ、人が気楽に落ち合える場所が貴重ではないかと」

東京・荏原中延の『隣町珈琲』には、精神科医の名越康文さん、哲学研究者で武道家の内田樹さんなど多くの文化人が訪れる。対談などのイベントもよく催される。

「個人が個人として言論することが民主主義の基本ですよ。政治家が官僚に圧力をかけて嘘をつかせる、今の政権はひどいですね。メディアや言論人が買収されている現実もあります。そういう地点から距離を置いて、黒いものは黒いと一人でも言い続けることをしないと、個人も市民もない、あるのは世間だけの国になってしまいます」

日本が抱える問題について新聞やテレビ、インターネットや雑誌で毎日のように報じられるが、世間の空気に流されず、実感の伴った個人の視点で状況を見つめ直した本が『路地裏の民主主義』だ。

「2011年から日本の総人口が減り続けています。’16年に出生者が100万人を割りました。難しい話ではなく、去年生まれた97万人は何年後でも97万人を上回ることがありません。人口動態というのは信用性の非常に高いデータで、他の経済指標とは全く違います。今後、人口が右肩上がりに増えることはないので、右肩上がりの経済成長も起こりえません」

ショッキングでも確実性の高いことなら、個人として信念を持って発言したほうがよい。

「敗北主義と言われるんですけどね(笑)。アメリカの基本的な戦略がわかる最新の『フォーリン・アフェアーズ』で、ようやくモルガン・スタンレーの代表的な立場の人が “これからは経済成長が難しい” と発言しました。

経済成長が無理ならどうやって定常化社会、成熟社会に移行するか考えなくちゃいけないんですが、前例のないことを考えるには黒いものを黒いと言える個人が確立していないと難しい。忖度が横行する今の政権では、成長を前提としないプランを立てることなどありえないでしょう」

一体どうなってしまうのか心配になってきた。

「全体の成長がない中に競争原理が持ち込まれれば、ほんの一握りの勝者と大量の敗者が生み出されることになると思います」

角川新書 800円

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