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『あきれた紳士の国イギリス』加藤雅之さん|本を読んで、会いたくなって。

ロンドンは専業主夫としては心地よかった。

かとう・まさゆき●1962年、東京都生まれ。ジャーナリスト。’87年に早稲田大学大学院文学研究科フランス文学専攻修士課程修了後、時事通信社に入社。24年勤務した。8月に、『ブリティッシュロック巡り』(青弓社)刊行予定。

撮影・千田彩子

通信社の記者だった加藤雅之さんは、外資系の会社に勤務する妻の転勤に伴い、思い切って退職し、小学生の娘と3人でロンドンに住むことに決めた。いまから6年前のことだ。本書は、娘の学校の送り迎えから、夕飯作りまで、「専業主夫」として毎日を送りながら垣間見た、イギリス人のちょっと変な生活ぶりを鋭く綴ったエッセイである。まず、イギリスというと枕詞のように「紳士の国」と言われるそのワケは?──。

「正直、どうしてそう言われるようになったかわからないんですよ。ほかの欧州の人に聞いても知らないと言うし、親しくなったイギリス人に尋ねてもハハハ、と笑っているだけでしたね。紳士の国だと思い込んでいるのは日本と韓国くらいかもしれません」

帰国して、なんて東京は静かな街なんだろう、と感じたのは、ロンドンで娘の学校の送り迎えのため車を運転していると、しょっちゅうクラクションを鳴らされたから。

「イギリス英語でクラクションを鳴らすことをhonkというのですが、青信号で発進が少し遅れたり、狭い裏道を安全のためにゆっくり走っていたりすると、すぐに後ろから鳴らされる。荒っぽい感じの男性だけでなく、高齢の女性からもブーッと鳴らされて最初は本当に驚きました。日頃の鬱屈をhonkで晴らしている感じなんですよ」

イギリス人は食べ物に興味がない、というのも本当だった。外食は大好きだけれど、味には無関心。

「10代の子どもがいる平均的な家庭でも、夕飯を家族で食べたりしない。お腹が空いた人がレトルトなどを電子レンジであたためて、適当な時間に食べていました。だから娘の友だちが遊びにきて、ちゃんとした夕飯を出しても親からたいして感謝されない。妻が同僚に『あなたにとって食事って何なの?』と聞いたら『燃料ね』という返事で絶句していました(笑)」

全編にわたってユーモアたっぷり。そして第一線の記者から主夫になった奮闘ぶりにも目をみはるものがある。スーパーマーケットの使いわけ法からイギリス滞在5年の間に作った夕飯のメニューまで克明に記録されているのだ。

「野菜や魚など日本と似ているものも茹で時間や火加減など調理法が微妙に違いました。そこが主夫としての腕のみせどころでしたね」

1年前に帰国。現在は主夫だけでなく、得意のフランス語と英語を使って日本語教師としても活動している。

「日本の社会を、兼業主夫の目を通して観察していきたいです」

平凡社新書 800円

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