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『かがみの孤城』辻村深月さん|本を読んで、会いたくなって。

つじむら・みづき●1980年、山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』(講談社)で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。第32回吉川英治文学新人賞の『ツナグ』(新潮社)、第147回直木賞の『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)など、著書多数。

撮影・森山祐子

10代を描くミステリーをライフワークと自任する辻村深月さん。本書もしかり。主人公の安西こころをはじめ、面識のない中学生の男女7名が自宅の鏡を通して別世界の謎の城に集められ、ひとつだけ願いを叶えられる鍵を探すことになる。実は、さまざまな理由で行くはずだった公立学校に通えない子たち。各々の事情がわかるにつれて、もうひとつの謎もあきらかになるという、ファンタジー要素にも引き込まれる人間ドラマだ。

「私自身、中学校時代は、不登校と呼ばれる学校に行かない選択をしている子たちをあまり遠い存在とは思っていなかったんです。ぎりぎりのところで通っていて、いったん休み始めてしまうと “普通” から外れてしまうだろうという焦りのような感覚がわかる。私だけでなく、昔のクラスメイトたちも、今の子たちも、きっと誰もが想像できるはずだと思う題材です」

救われるような言葉がたくさん。学校に行けないのはこころのせいじゃないということだったり、もう闘わなくてもいいよということだったり、そう言ってくれる大人の存在がどれほど大切か。描かれるのはこころの視点からだが、心配だからこそ対応に悩む母親や、登校すると決めた娘の自転車のサドルを磨く父親など、両親の心情も察するにあまりある。

「大人の援助にも気づいていく話にしたいと思ったんです。見方を変えたり、信頼してみてほしい。デビュー作の頃は圧倒的に気持ちが高校生に近かったのですが、今は母親がどういう思いでいるかもわかりますから」

最後まで読むと、子どもは「大人も昔は子どもだった」と、大人は「無関係な中学生の話と思ったら自分のことだった」と気づく仕掛けが。そして、伏線のすべてがつながり、未来を信じて生きていく力をもらえる圧巻のラストへ。

「“大人になっても大丈夫だよ” って、一言だけでは伝わらないから、554ページ書いたようなものです。もしタイムマシンが発明されて、昔の自分に一冊を送れるならこの本にしたい。『大人のくせになかなかやるな』と中学生の私も認めてくれるんじゃないかな。そんなことを書店のポップにも書いていたら、『タイムマシンはないけれど、私には届きました』と言ってくれる子も現れて。今までにないくらい自分に引き寄せて読んでくれるケースが多くて、どんなところがどう響いたかを全力で伝えようとしてくれるんです。本当に書いてよかったなと思います」

ポプラ社 1,800円

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