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『鉄砲百合の射程距離』編・大竹昭子さん|本を読んで、会いたくなって。

言葉と写真が切り結ぶ、新しい表現を。

おおたけ・あきこ●1950年、東京生まれ。最新刊は『間取りと妄想』。トークと朗読のイベント「カタリココ」を継続的に開催。本書タイトルは収録句「慕情いま鉄砲百合の射程距離」より。表紙には収録写真の倍率をあげて出現させた網点を使用。

撮影・森山祐子

石橋の昇り口だろうか。A4判見開きいっぱい、ざらっと粒子の粗いモノクロ写真の右肩に「をとこ来て穴掘りはじむ花の下」。句は内田美紗さん、写真は森山大道さん。頁をめくるたびに写真と句が織りなす不穏な世界に息を呑む。この2人のアーティストをカップリングし、一冊に編んだのが大竹昭子さんだ。

「20年ほど前、森山さんの取材で内田さんと出会いました。句集をいただいて読んだら、なんてかっこいいんだろうと。私のような俳句に親しんでない者の心を鷲掴みにする鋭さ、率直さ。その時、森山さんの写真に合わせたらどうだろうとふと思ったんです」

そのひらめきは自身が写真家、写真評論家、小説家、エッセイストと複眼で活動する大竹さんならではで、以来、「写真と言葉は別種のメディアだけど、それがもたれ合うのではなく、刺激し合い、響き合うことで世界が広がるのではないかとずっと考えてきた」。

本書の中で明かされていないが、実は姉弟である俳人と写真家。しかし、大竹さんは血のつながりがこの本の出発点ではないと語る。

「たまたま姉弟だった、というくらい。むしろ感性の共通性というか、彼らの世界の見方が響き合うということのほうが重要で、そこがこの本の軸となりました」

森山さんの写真は空間ではないと大竹さんは指摘する。写っているのは物体ではなく時間なのだと。

「時間の層、時のレイヤーですよね。物をぐっと押しつぶしてぺたんこにして印画紙に焼き付けてい るような写真。そして内田さんの 句も、思い浮かんだ言葉を投げたら壁にペタッと張り付いたというような、情感を挟まないフラット感が特徴です」

編集にあたり、まず大竹さんは句を選び、写真集に入っていない森山さんの写真にも目を通して組み合わせを考えた。写真のど真ん中、被写体を切り裂くように句が配された見開きも。

「森山大道の写真をそんなふうに扱うなんてすごい心臓ですけど、絶対にこの位置、というのがあるんです。だから、思いついてから実現するまでの20年は必然だったのかもしれない。言葉と写真の関係について自分のなかで経験値が高まったからこそ出来た。枝から実が離れるというか、今がその時なんだという感じがしました」

願わくば、自分で表現するもの何もかもが「今無い」ものであってほしい、という大竹さん。句・写真・編集と3つの才能が響き合うことで生み出された希有な果実を、同時代に味わう幸福を思う。

月曜社 2,500円
句・内田美紗
写真・森山大道

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