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『ホライズン』小島慶子さん|本を読んで、会いたくなって。

大人の人間関係の中の孤独と希望を描いた。

こじま・けいこ●1972年、オーストラリア生まれ。タレント、エッセイスト。現在は生活の拠点をオーストラリアに移し、仕事のある日本と往復する。著書に親との関係を綴ったエッセイ『解縛』(新潮社)、小説『わたしの神様』(幻冬舎)など。

撮影・岩本慶三

小島慶子さんの2作目の小説の舞台は、南半球のある国。現地の日本人コミュニティに属する4人の女性の交流が描かれる。

「私の場合、元女子アナとかオーストラリア在住とか、タレント小島慶子のイメージを持って本を読んでくださる方も多いので、その延長線上で物語を書いたほうが読みやすいかなと。それで前作は女子アナの世界、今作は南半球の国。設定は特殊かもしれませんが、今回描こうとした中年期の人間関係における飢えや渇きみたいなものって、きっと誰もが日常の中で経験していることだと思うんです」

海外企業に転職した夫と共に移住し、娘を育てる主人公の真知子は、投資銀行に勤める夫を持つセレブな郁子や商社マンの妻で面倒見のいい宏美、現地日本人シェフと再婚した気の強い弓子と出会う。タイプの違う4人は、家族との確執や自身のキャリアへの不満など、様々な事情を抱えている。

「引っ込み思案で思い込みの激しい真知子には、描いていてすごくイライラしましたが、彼女はウジウジしている分、相手を観察する時間が長い。その目を通して他の3人を見ることで、彼女たちへの理解が深まるのかもしれません」

冒頭、真知子が娘と墓地に佇むシーンは、小島さんが幼い頃に母親から聞いた話が元になっている。

「自分がオーストラリアに住むようになって、あんなに分かり合えないと思っていた母への見方が変わったんです。私より若かった母が、この街で私を産んで育てたと思うと、孤独だっただろうなって。真知子のモデルが母というわけではないけれど、あのとき赤ん坊を抱きながら母が見た風景はどんなだっただろう、という思いがこの小説を書くきっかけでした」

濃密で狭いコミュニティの中で、不自由さやもどかしさを抱えながらも仲を深めていく4人。ときに反発し、でもどこかで共感もしてしまう。大人の友情って、確かにこんなものかもしれない。

「この歳になると、社交辞令的な付き合いやとても友だちにはなれない人との出会いも多い。けれど、そんな関わり方が全て虚しいわけではないと思う。親友にはなれないけど他人とも思えず、相手の孤独や欲望に共感してしまう。それって、わりと豊かな関係じゃないでしょうか。向き合っていた人に背を向けて地平線の彼方を目指して歩きだすと、いつかは相手の背中にたどり着くように、一周まわってまた出会える、理解し合える関係も悪くない。この4人や私と母の関わりの中にある、そんな希望を描きたかったんです」

文藝春秋 1,700円

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