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『月のぶどう』寺地はるなさん|本を読んで、会いたくなって。

取材して書くことに今回、ハマりました。

てらち・はるな●1977年、佐賀県生まれ。大阪府在住。会社勤めと主婦業のかたわら、小説を書き始める。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞。著書に『ミナトホテルの裏庭には』、アンソロジー集『リアルプリンセス』がある。

撮影・森山祐子

大阪の郊外、気持ちのいい山にあるワイナリーを舞台に広がる家族の物語。代表である母が突然亡くなったことで家業を守ろうとする双子の姉と弟を中心に物語が展開していく──。本書のなかで、姉は尊敬していた母の死にショックを受け、一緒に棺に入りかねないほど狼狽するが、作者である寺地さん自身は、母親に過度な期待を持ちすぎたくない、とも話す。

「かつては私も母は偉大である、というイメージを持っていました。でも今、6歳の息子を育て、いろいろ経験すると、母親を特別視することはないと気づいたんです。母だからといって誰もが万能なわけではない、と言いますか。思い返してみると、私の母も忙しい人で、母自身、私を育てた記憶が薄いと言われたこともある。最近、母と娘の関係にずいぶん注目が集まっているようですが、母はすごい、と必要以上に持ち上げることがお母さんたちを苦しめることにもなっているのだと思います。作中の姉がショックを受けたのは、偉大な先代であり母、という2つの役割があるからですね」

ぶどうを育て、1年に1度丁寧に仕込みをし、年月をかけてワインを育てていく描写。読み進めるうちに香りふくよかなワインを飲みたくなるのだが……。

「私は普段ワインもお酒も飲まないし、ワインにそこまで興味津々、ではないんです(笑)。この本で自分に課したのは “知らないジャンルのことを、きちんと調べて書く” という経験。ワインの造り方などを取材し、ストーリーに展開する、というのが今回はハマりました」

毎回それまでの作品では書いていない内容や手法を試したいと思っていて、1作ごとに、デビュー作と全然違う、と言われたいそう。

「自分の作品らしさというものは自分で意識するものではなくて、自然とにじみ出てしまうものだと思うんです。だからできるなら、ミステリーでもルポルタージュでも怖い話でも、何でも挑戦してみたいんです」

昼間の数時間のみで小説を書いているため、机に向かえばすぐに集中できるし、書くことはいくらでも思いつく。でももしどちらかを選べと言われたら、書くよりも読むほうが楽しい、と断言する。

「育った佐賀の田舎には当時豊富には本がなくて、本屋さんにある文庫の目録を眺めるのが唯一の楽しみでした。3行ほどのあらすじとタイトルから話を想像して楽しんでいましたね。娯楽が少なくて想像するぐらいしか楽しみがなかったのが、今小説を書く上で役立っているのかもしれません」

ポプラ社 1,500円
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