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『かぼちゃを塩で煮る』牧野伊三夫さん|本を読んで、会いたくなって。

  • 撮影・尾嶝 太

台所に置いて、たくさん汚してほしいです。

まきの・いさお●1964年、福岡県北九州市生まれ。画家。美術同人誌『四月と十月』同人。著書に、『僕は、太陽をのむ』(港の人)。群ようこ著『かもめ食堂』、町田康著『ホサナ』ほか装丁画多数。なんと、今回が初の著者インタビューだそう。

本誌でも台所取材をしたことがある、料理上手で知られる画家の牧野伊三夫さん。イラストや描き文字も味わい深い本書は、日々の暮らしや旅先での実にうまそうな食事のエピソードをきっかけに披露される、牧野さん直伝のレシピ集でもある。刺身用に買ったまぐろがまずかったときのアレンジ法や、旬の春になると食べたくなるというアサリと豚肉の白ワイン蒸しなど、あんまりおいしそうだから自分でも作りたくなってウズウズしてくる。

「気楽に作りたくなるように、あまりむずかしいものは入れずに、分量を書くのもやめました。量を書かずに言葉だけで、おいしく気取らずに、楽しくなるように。酒のつまみが多くなってしまいましたが、好きでよく作って食べてきた料理のことをわかりやすく書こうとしました」

独特の語り口は、決して説明くさくないがわかりやすい。うまくいくためのコツや応用できるポイントを、友だちに直に口頭で教えてもらっている感覚だ。

「“調味料が小さじいくつ” とか、 “何分茹でて” とか、そういうことに縛られすぎると料理をするのが楽しくなくなりませんか。基本は火加減と塩加減。あとは少しくらい分量を間違っても、味のうち。めざしの炙り方にしても、本に書いた以上に細かくあげればポイントはたくさんあるけれど、そこは失敗しながら覚えましょうということにしているんですよ。最近、世の中の傾向として、間違っちゃいけないという風潮があって気になっていて。失敗していいんだよ、ということがベースにあります。僕もこれまでいろいろ失敗してきましたよ。40代初めまで、出汁のことを “でじる” って読んでいたくらいです」

実は、その都度書きつけて、何束にもなってしまった作り方のメモをまとめ、「本ができたら、うちの台所に置くのが目的でもあった」という。夫婦で一緒に台所に立ち、献立を考えて下ごしらえして調理して。夕食には、かたわらに置いた七輪の炭火でイカなどを炙りつつ、用意した料理を味わう毎日。かたくるしく考える必要のない家庭料理ならでは。たとえば、ふたりで今日はあれを作ろうということになったとき、そこにある食材を見て足りなければ、「無きゃ、無いなりに」が合言葉なのだ。なんて素敵な夫婦、なんて豊かな食卓。

「台所に置いたこの本が、たくさん汚れてくれたらうれしいです」

幻冬舎 1,300円

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