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『大切な人が病気になったとき、何ができるか考えてみました』井上由季子さん|本を読んで、会いたくなって。

やっぱり家族にしかできないことがある。

いのうえ・ゆきこ●1958年、大阪府生まれ。京都にて手と心を動かしてもの作りをする「モーネ工房」を夫とともに主宰。本書の後半では、霊安室のアートなどを担当した「四国こどもとおとなの医療センター」の病院の在り方を紹介。著書に『老いのくらしを変えるたのしい切り紙』『住み直す』。

撮影・森山祐子

介護生活は、何の心構えもなしにある日突然始まる。京都「モーネ工房」でもの作りをするデザイナー、井上由季子さんの場合もそうだった。脳出血で母が倒れ、老父とともに在宅介護を始めた数年後、父もまた病に倒れる。その父を短い入院生活で見送った後も、井上さんは通いで母の在宅介護を続ける。本書は7年にわたる介護生活で、デザイナーならではのやり方で自分にできることを探し、実行した井上さんの思いの記録だ。

「友人に『そこまであがいてたんか!』と呆れられましたが(笑)」

たとえば、ベッドに家族の写真を貼ったティッシュケースを置く。看護師さんに意思を伝えるために巨大な単語帳みたいな伝達カードを作る。いくつもの具体的な工夫がビジュアルとともに紹介される。

「私が病院にいる時以外は、母はぽつんと一人でベッドにいるだけ。麻痺で手も動かせないし、意思疎通も難しかった。看てくれている医療者の方々に母のことを知ってほしかったし、家族として伝えたいこともありました」

その思いの根底には、数年前から縁あってホスピタルアートを手がけている香川県の「四国こどもとおとなの医療センター」の存在があった。そこではアートが患者と医療者を繋ぎ、自然な会話が溢れていたのだ。

「あんな病院が近くにあったらまた違うんじゃないかと。病気で入院しているだけでもつらい。せめて医療者の方々とのコミュニケーションが上手くとれたらいい。そこを私はあきらめられなかったから」

在宅介護の際には気づいたことなどを、ケアマネジャーに小まめにイラスト付きのファックスで送った。送った紙は捨ててしまったが、「山のようにあるファックスをケアマネさんは全部とっててくれて……。工房の生徒の女性が言ってくれたんですが、彼女はお母さんを見送って、今お父さんが闘病中。『由季さんの本を読んで、私は医療者の方も一生懸命やってはんねんやから、あれこれ言うのが申し訳ないと思ってた。でも医療者にも寄り添わないとだめなんだ』って。

この本を作るのに2年半かかり、昨年母も亡くしました。でも、今こそ医療者と患者とのコミュニケーションが必要になってきてると実感しています。患者も家族もあきらめないで、自分の立場でできることを見つけてもらえたらいいし、それは病院側も考えてほしいこと。医療者にも患者にも風通しのいい空間を作ってほしい。それがいちばん伝えたいことですね」

筑摩書房 1,600円

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