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『悟らなくたって、いいじゃないか』プラユキ・ナラテボーさん|本を読んで、会いたくなって。

日常生活に活かす仏教の智慧とは。

プラユキ・ナラテボー●1962年、埼玉県生まれ。タイ・スカトー寺副住職。上智大学を卒業し、’88年、著名な瞑想指導者カムキエン師の下で出家。著書に『「気づきの瞑想」を生きる』『苦しまなくて、いいんだよ。』ほか。本書は魚川祐司さんとの共著。

撮影・尾嶝 太

著書『仏教思想のゼロポイント』で注目される魚川祐司さんと、日本とタイを往復しながら瞑想指導を続けるプラユキさん。いま仏教を語る上で目が離せない二人の対談、つまらないはずがない。

「魚川さんは日本の大学院で仏教を学んだあとミャンマーで瞑想修行をした方で、とにかく話が面白くインスピレーションを与えてくれる。ずっと注目していました」

とプラユキさん。それにしても、刺激的なタイトルです……。

「確かに(笑)。ただ、読んでいただけば分かるように、〈悟り〉そのものを否定しているわけではないんですよ。〈悟り〉を目指さない人でも、仏教に触れていい。日常生活の悩みや苦しみをやわらげるために仏教は役に立つんだよ、ということを言いたいわけです」

信仰の道に入るのではなく、ごく普通に生きる人が、人生の糧として仏教を活用するにはどうしたらいいか。そのための具体的な方法が本書では語られていくのだが、とにかく魚川さんとプラユキさんの対比が面白い。とことん理詰めで、次々に鋭い問題提起をぶつけてくる魚川さんに対し、それを避けたりいなしたりするのではなく、懐でしっかりと受け止め、包み込むように答えるプラユキさん。そのやりとりは、まさに本書のテーマである〈智慧〉と〈慈悲〉の実践のようで、感動的ですらある。

プラユキさんは現在、瞑想を教えるだけでなく、さまざまな悩みに答える個人面談も行っている。内容は仕事上の悩みや恋愛相談も多いが、最近増えているのは瞑想を始めて、逆に心身の不調に陥ってしまった人の相談だ。

「本の中では〈瞑想難民〉と言っているのですが、瞑想時に集中しすぎて気持ちが落ち込んだり、感覚が過敏になってしまうといった症状を訴える人もいます」

そうした人たちとの面談でも、まず相手を受け入れ、相手の土俵に乗ったほうがうまくいくという。

「ただし、相手に共感しつつも巻き込まれないようにするには、手放すこと〈捨〉が必要になります」

いま日本では瞑想がブームといわれるけれど、人々が求めているのはビジネスに役立つ〈集中力〉やインスタントな〈至高体験〉であるように見える。

「そこを超えたところに〈智慧〉があることを知ってほしい。もちろんスタートではそうした体験を求めてもいいですが、どこかでそれを手放す必要が出てくる。その先にこそ〈悟り〉があるんです」

おだやかな笑顔で、さらりと本質的なことを言う。プラユキさんはやっぱり深い。

幻冬舎 800円 共著・魚川祐司
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