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『全裸監督 村西とおる伝』本橋信宏さん|本を読んで、会いたくなって。

村西さんにとって、AVは仮想通貨だった。

もとはし・のぶひろ●1956年、埼玉県生まれ。ノンフィクション、小説、エッセイなど多彩に執筆。著書に『裏本時代』(幻冬舎アウトロー文庫)、『東京最後の異界 鶯谷』(宝島SUGOI文庫)、『上野アンダーグラウンド』(駒草出版)などが。

撮影・森山祐子

700ページを超える大著で記されるのは、波瀾万丈のみならず毀誉褒貶(きよほうへん)を受けながらもとどまるところを知らないジェットコースターのような人生。村西とおる、現在68歳。AV(アダルトビデオ)の帝王として1980年代後半には業界はもちろん世間を席巻。著者の本橋信宏さんは、村西さんをそれ以前から公私ともに30年以上見つめるなかで彼のこれまでの足跡と現在にいたるまでの生きざまを綿密な取材とともにまとめた。

「もう少し出すのを待てば、また何かやってくれるんじゃないかと思ったんですが(笑)。この20年で彼の考えていた資本主義や流通の仕組みが変化したことを伝えたかったのと、私と同じく長年「村西山脈」に挑んできた高槻彰監督のドキュメンタリー映画が完成したのにも刺激されました」

福島から上京後に水商売に入ったときの初任給は1万4000円、その後、英語教材のトップセールスマンになり、稼いだお金で修正の薄いエロ本の販売で大儲けし、刑事たちに毎月600万円の “裏金” を渡してきたが、最後は北海道で逮捕されてしまう。保釈後、全財産は1万6000円になるも、今度はAVに転じて自ら監督した作品が大ヒット。年商100億円を誇る村西王国を築き上げるも放漫経営とバブルの崩壊も重なり破綻。8000万円のお金を捻出するために実際に血の涙を流す。全20章になるエピソードはどれも常人には味わえない振り幅で突き進む様子に圧倒される。

「どれだけ稼いでもその金をすべて次の仕事に使っちゃう。村西さんにとってAVは仮想通貨なんですね。だから50億の借金があって、それを返せるアテがなくても “そんな金額は射程圏内です”、と平然と言えてしまうんです」

そんな村西さんに心境の変化が訪れたのは46歳で授かった子どもと家庭だったと本橋さんは言う。

「24時間仕事に費やしてきた人が、息子が生まれてからは家族と過ごすことに目覚めて、休みをとるのが生きがいになった。あの村西さんに人間にとっての幸せはビジネスやお金だけでは得られない、ということを気づかせた妻と子どもの存在はすごいと思います。表情も以前は近寄るのも怖い日が多かったのが、穏やかになりましたね」

AVメーカー時代の社名 “クリスタル” 同様、常に世間に輝きや一石を投じる村西さんの半生と重なる姿を、最終章近くで本橋さんは彼がふともらした発言から汲み取ってゆく。人生を全力疾走してきた男が行き着いた言葉も本書で味わってほしい。

太田出版 2,400円
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