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『古来種野菜を食べてください。』高橋一也さん|本を読んで、会いたくなって。

種から育てた野菜のことを知ってほしい。

たかはし・かずや●1970年、新潟県出身。レストラン『キハチ』の調理師時代に有機野菜と出合い、『ナチュラルハウス』でオーガニック食品の販売を推進。2011年、古来種野菜のみを扱う「ウォーマーウォーマー」を設立。http://warmerwarmer.net/

撮影・清水朝子

「古来種野菜」とは、著者の高橋一也さんによる造語。在来種、固定種、伝統野菜など、いろいろな呼び名のある、自然の営みの中で種から育ち、脈々と受け継がれてきた野菜の総称として考えた。量は確保できず、形は不揃いで、存在を広く知られることのなかった古来種野菜を守りたくて、高橋さんは流通を請け負う会社を立ち上げた。本書は、高橋さんが直面した野菜を巡る現状と、種を託された農家の人々との関係や実践してきた活動をまとめた奮闘記だ。

一般的に売られている野菜はF1種といい、流通販売しやすい規格どおりに量産できる一代限りのもの。高橋さん曰く、安定した生産や経済活動のためには必要でもあり否定はしないけれど、

「先祖代々食してきた文化ともいえる古来種野菜が失われるのは単純に嫌なんです。種を採る農家さんがいなくなれば簡単に途絶えてしまう」

本書の中の存在感のある野菜の写真を見ると、それだけで心を動かされる。農家の人たちはこうした力強くておいしい野菜を育てることはできても、うまく流通させるのは、また違う労力。高橋さんはそこを買って出て、私たちに知るチャンスを与えてくれている。レストランの軒先を借りて店頭販売するところから始めて、『種市』という古来種野菜のマーケットを開き、現在はネット通販のほか、新宿伊勢丹と銀座三越の野菜売り場でも取り扱いがある。

「種の大切さを知っている人を増やしたい。さらに買ってもらいたい。買うというのは、ひとつの選択。それが積み重なることで、社会は変わります。作る人、流通する人、食べる人、みんなが同じ目的を持てるといいなと思うんです。もちろん前提として、おいしいことが大切です。味がある、深みがある。くせがあるけど、それが旨味だと気づいてほしい。それを共有しながら買ってもらうことで、種は残っていく」

この仕事に関わり丸5年が経ち、高橋さんは思うことがある。

「生産性や効率が悪くていいじゃないか。古来種野菜は、つるんときれいではないけれど、ひとつずつ個性があって、見ていて飽きません。そういうものも世の中には必要です。一般的に売られている野菜は規格にのっとりできますが、それは経済としての“農業”が作り出す“商品”。本当に野に咲く菜といえるのか? 私が大切にしたいのは、自然を相手に神へ祈りを捧げる“農”の育む“食べ物”。私たちは、農をもう一度考えるべきではないでしょうか」

晶文社 1,650円
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