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『夜行』森見登美彦さん|本を読んで、会いたくなって。

不気味な感触を味わうように読んでほしい。

もりみ・とみひこ●1979年、奈良県生まれ。2003年『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。『夜は短し歩けよ乙女』で第20回山本周五郎賞、『ペンギン・ハイウェイ』で第31回日本SF大賞を受賞。

撮影・森山祐子

 京都で共に学生時代を過ごし、10年ぶりに「鞍馬の火祭り」を見にいくことになった5人の男女。実は10年前の同じ日、仲間の一人「長谷川さん」が祭りの夜に失踪していた。彼女への思いを抱えたまま集まった5人は、祭りの前夜、宿でそれぞれが旅先で体験した奇妙な出来事を話すことに──。

 森見登美彦さんの最新作は、ゾワッとするような不気味さと感傷的な旅情漂う、連作怪談小説だ。

「もともと連載時には1話完結で、純粋に怖い話を書いていました。けれど単行本化にあたって、5人の語り手による各章を束ねることを考えた時に、皆が旅先で同じ作家の銅版画を見る、という設定を付け加えたんです。銅版画にはネガとポジ、陰と陽のような意味合いがありますよね。それを物語にうまく使えないだろうかと」

 尾道に奥飛騨、津軽。訪れた先で出合う絵に吸い込まれるように、主人公たちは現実の“向こう側”の世界に迷い込む。そして、夫婦の関係や幼少期の出来事など、日常のなかで隠していた後ろ暗い部分があらわになっていく。

「僕の作品では、異世界を描くことがよくありますが、その存在を信じているかと言われると微妙なんです。ただ、子どもの頃から、この横道を入ったら別の世界に通じているかも、みたいな憧れはあって。そんな夢みたいな感覚を小説に落とし込むのが好きです」

 各話ごとに、そして全体としても不可解な部分や謎を残しつつ、物語は進む。森見さんはそれを“ブラックボックス”と呼ぶ。

「明確に語られていない部分について僕なりの想定は一応あるけれど、それが唯一の解釈ではないし、厳密に伝わらなくてもいいんです。それよりも、旅先でふとした瞬間に襲ってくる不安感や恐怖の感触を味わうように読んでもらえたらいいと思います」

 銅版画の謎が徐々にひもとかれることで、衝撃的なクライマックスへ向かっていく。そしてラストには、不思議な爽快感を伴った“夜明け”がやってくる。

「不気味なだけの話にならないように、“落ち”を考えました。けれど、話全体のブラックボックスを考えると、この夜明けは単純な夜明けではないかもしれない。そこに気づくと、もっと気味が悪くなってしまうかもしれません。そこは深読みしていただいても、ハッピーエンドと思っていただいても、お好きなように」

 どこまでも読者を翻弄する、魅惑の森見ワールド全開だ。

小学館 1,400円
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