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『蜜蜂と遠雷』恩田 陸さん|本を読んで、会いたくなって。

音楽と小説は意外と相性がいいようです。

おんだ・りく●1964年、宮城県生まれ。『六番目の小夜子』でデビュー。『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞、『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞、『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞を受賞。

撮影・青木和義

みずみずしい感動と静かな興奮をともないながら、“音楽を読む”。そんな、傑作小説の誕生だ。恩田陸さんが約8年の歳月をかけて書き上げた本作の舞台は、日本のとあるピアノコンクール。

「コンクールを最初から最後まで書いてみたい、とずっと思っていました。芸術に順位をつけることの不毛さという視点で語られることもありますが、私は必ず勝敗がつく残酷さがあるからこそ、コンクールは面白いと思うんです。そこには必ずドラマがある」

モデルになったのは、実在する「浜松国際ピアノコンクール」。3年に一度開催され、世界的に注目されるこのコンクールに、恩田さんは4度足を運び、ほぼ全ての演奏を聴いてイメージを膨らませた。

「音楽を書く。最初は難しいかなと思いましたが、実際に書いてみると意外にしっくりきた。演奏者の心理は小説でないと描けない部分だし、映像でなく文章だからこそ、読み手がそれぞれの音をイメージできる。音楽と小説は実は相性がいいみたいです」

ストーリーは、4人の出場者の演奏と心の葛藤を軸に展開する。圧巻なのは、音の表現の多彩さ。海のような音、雨のしずくのような音、極彩色の音、明快で穏やか、しっとりした音、素朴なのに官能的で、煽情的ですらある音──。私たちの頭の中には、不思議と、抽象的ながらクリアな音の印象が浮かんでくる。そして、1次予選から3次予選、本選と進むなかでも、読者を退屈させることがない。

「予選から本選まで書くということは、同じ人物の演奏を何度も書かなければならないということ。三次くらいが一番きつかったですね(笑)。演奏者の視点、聞き手の視点、演奏者が曲を自分のものにするまでの過程……。あの手この手で表現を絞り出しました」

なかでも、優勝候補マサルの三次予選の曲目、リストの「ピアノ・ソナタ ロ短調S.178」の描写は緊迫感と疾走感に圧倒される。

「マサルが曲をひもといてオリジナルの長編小説を創作してしまう。この表現は一度しか使えない禁じ手のようなもの。そもそもすごく長いこの曲を、100回以上聴いて物語を組み立てていきました」

最終章の本選では、音についての描写がほとんどないにもかかわらず、読み手は確かに彼らの演奏を“聞く”ことができる。予選の演奏で、個々の音楽性や人柄を充分に理解できているからだ。読後、誰もが自分の中で流れるピアノの余韻に浸りたくなるはずだ。もちろん、クラシックの素養のあるなしは関係ないので、ご心配なく。

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