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『手のひらの京』綿矢りささん|本を読んで、会いたくなって。

夜の嵐山の魅力は伝えたかったです。

わたや・りさ●1984年、京都府生まれ。2001年『インストール』でデビュー。’04年『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。’12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞。著書に『ひらいて』『勝手にふるえてろ』『憤死』『大地のゲーム』など。

撮影・森山祐子

綿矢りささんの新作は、自身が生まれ育った京都を舞台に三姉妹の恋愛や成長を細やかに描く綿矢版の「細雪」と呼べる作品。

「いつか自分の住んでいた京都について書きたいと思っていたのですが、なかなかぴったり合うテーマが見つからなくて。それが最近東京で暮らすようになってから京都を少し距離を持って見ることができるようになったんです。そのなかで京都の場所や四季を通して人の心の動きを描くのはどうかなと思えてきました」

新緑の鴨川、夏の訪れを知らせる祇園祭や大文字焼き、山が紅葉に包まれる秋……季節が移ろうごとに彩りを添える行事やスポットが点在する京都。綿矢さんはそれらを描きつつ、生活した人ならではの魅力ある場所も記す。

「夜の嵐山は書きたかったんです。昼の嵐山は有名ですけれど、夜の神社の灯籠だけついた人通りのない嵐山を車で回ると、違う京都の姿が見えると思います」

三女の凛は大学院を修了後に東京での就職を決意する。京都生まれ京都育ちの両親からは受け入れがたい選択に家族のあいだでの葛藤が起こる。──私は山に囲まれた景色のきれいなこのまちが大好きやけど、同時に内へ内へとパワーが向かっていって、盆地に住んでいる人たちを優しいバリアで覆って離さない気がする──とその心情を綿矢さんは記す。

「私も京都の引力は感じていました。四方が山なので、守られている感じがするんです。わざわざ出る意味を考えないと、こたつみたいに出にくい(笑)。凛を通じて、京都を出ようとするときのエネルギーや、京都の持つ磁力は描きたかったです」

「そんなん思ってへんよ」「無理しいひん程度にがんばったら」「そろそろ帰ってき」といった京都弁とともに記される三姉妹や両親の会話も小気味よく、各エピソードに風情を添えている。

「私が京都で育ったあいだに耳に入ってきたとおりに書いたので方言は忠実です(笑)。京都弁で書くと表記が難しいかと思ったんですが、すごく楽しめました」

新しい春を迎えると、三姉妹には大きな変化が訪れている。両親と会話する凛の姿からは、家族の尊さや故郷の魅力が深く伝わってくる。

「家族がずっと幸せでいるのもいいけれど、時が流れていくなかで確実になにかが動いている、そんな限りある時間を今回は描けたと思っています」

新潮社 1,400円
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