山本勘助という戦国時代の軍師は後代の文献にしか登場しない人物で、同時代の史料がないため従来「いない」とされてきた。井沢元彦さんは論理的に検討して「いる」説を主張した。その後、勘助の存在を示す同時代の史料が発見されると歴史学は「いる」説に傾いた。
「残念ながら研究者のみなさんは悪い意味で専門家なので、時代を通して論理的に見ることに関しては非常に弱いですね。そのウィークポイントがあるから『逆説の日本史』に存在意義があります。歴史の専門分野に取り組む方も、通読すれば絶対プラスになります」
特に見落としがちな点は何かと井沢さんに尋ねてみた。
「西洋にはキリスト教という底流があって、その影響で歴史が動いていますよね。日本にそういう底流がないかといえば、言霊とか穢れとか明らかに歴史を動かしている精神面の底流がある。それは宗教です。無宗教だと思い込んでいても、『縁起でもないことを言う』とか『禊を済ませる』と日常会話で口にするのは日本に独特の宗教の影響です。意識していない分、強い底流となって歴史を動かしていることが見落とされがちです」