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『たもんのインドだもん』矢萩多聞さん|本を読んで、会いたくなって。

フツーの暮らしのなかに深い哲学がある。

やはぎ・たもん●1980年、神奈川県生まれ。中学1年のときに学校をやめ、細密画を描きはじめる。1995年から毎年インドで半年を過ごす。2002年ごろから装丁の仕事を始め、いままで400冊以上を手がける。著書に『偶然の装丁家』(晶文社)ほか。

撮影・尾嶝 太

 著者の矢萩多聞さんは、中学で学校に通うのをやめ、14歳から一年の半分をインドで過ごしていた。もしや口の重い人かと思ったら……。いや、しゃべるしゃべる。

「言われます。でも両親はもっとおしゃべり。せめて息子にはもっと人の話を聞いてほしいと、多聞と名づけたみたいです(笑)」

「とくにインドの話題なら24時間しゃべれます。ずっとインドとつき合ってきたけど、やっぱりインドはわからない。いつも固定観念を崩される。だから同じ所に十何年住んでいても飽きないです」

「インドって物騒なイメージがあるでしょう。映画の帰りにオートリクシャ(三輪タクシー)にメガネを忘れたことがあって、出てこないだろうと諦めていたら、1時間くらいたってアパートのドアを叩く音がする。開けると汗だくになったリクシャの運転手が『探したよ!』って。近所を一軒一軒歩いて探してくれたみたい。思わず、お茶をご馳走しちゃいました」

「インドの製紙工場を訪ねたときも面白かった。おばちゃんたちがぺちゃくちゃしゃべりながら作業をしているのが気になって、もう少し合理的にできるんじゃないかと言ったら、『ただ紙を作るだけなら機械でもできる。人間の手で紙を作るのはぜんぜん違うことだ』。楽しく仕事して、生活の糧を得て、しかも昼寝ができなくちゃいけない(笑)。なるほど!」

「口琴(こうきん)という楽器を習っていたとき、先生になにげなくおすすめの音楽ありますか?と聞いたら、キミが今聴いている音楽を愛し、聴き続けなさい、と。『音楽という大きな海のなかで、一生のうちに私たちが聴けるのはせいぜいスプーン1杯ほど。でもそのなかにすべてが詰まっているんだよ。それを一生聴きなさい』。その先生は代々受けついだ楽器の仕事で、細々と暮らしている。小さな暮らしだけど、見ている世界はぜんぜん小さくない。びっくりしました」

「こういう体験が次から次へと起こるから、インドは面白いと思います。僕が中学をドロップアウトしてもこうして生きられているのは、インドのおかげ。日本では1カ所でうまくいかなかったらもう行き場がないけど、インドなら、ここでダメでも別の場所で生きていけると思わせてくれるんです」

 もう書ききれないので、続きは本書を。インドの普通の人々の、深い話がたっぷり詰まっています。最後にご提案。多聞さんがゆるりとインドを案内する番組(『ブラたもん』?)、ぜひ企画して!

ミシマ社 1,000円
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