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『医者のたまご、世界を転がる。』中島侑子さん|本を読んで、会いたくなって。

世界の医療現場に触れ、課題が見えてきた。

なかじま・ゆうこ●1982年、東京都生まれ。世界一周旅行から帰国後、全国で講演会・写真展を開催。現在は長野の病院で救命救急医として勤務中。今年、自身が考えたビジネスプランが「信州ベンチャーコンテスト」でグランプリを受賞した。

撮影・森山祐子

 ネパール、インド、キューバ、ボリビア、エチオピア……。3年間で52カ国を旅した女性の旅行記、とは微妙に違う。中島侑子さんは、現在長野の病院で働く救命救急医だ。研修医修了後、通常ならそのまま医者になるところで一度立ち止まって、世界一周の旅に出た。

「当初は1年だけの予定だったんですが全然終われなくて……。出国したとき、絶対に行きたいと思っていたのは、中東とアフリカと中南米。スタートした中国から西に向かい、トルコからヨーロッパに飛んだところで1年目が終わり、行きたいところにまだまだ行けていなかったんです。旅の間は観光地に行くよりも現地のかたと触れ合ったりホームステイした日に最も、『素晴らしい一日だった』と思えたんですね。そうなると予定がスムーズに進まなくて、1カ国に1カ月ほど滞在するスタイルに」

 きっかけは医学部6年生の春に人生初の一人旅でタイに行ったときのこと。行く前は不安だったけれど想像以上に楽しめたし、また人生を自由に謳歌しているたくさんの旅人に出会った。卒業後の進路を考えるうち、決められたレールの上を歩いているような感覚を怖いと思い、研修医を修了したら世界一周の旅に出よう、と決意。そして旅の間じゅう記録していたブログが、この本の素となった。

「もともと文章を書くのが好きで、20歳頃から、漠然と“いつか出版したいな”と思っていたんです。でも、何を?と聞かれると決まっていなくて(笑)。帰国後、旅のことだけでまず本の企画書を作りました。最初はこの旅に医療は絡めたくないと思っていたので、旅にテーマを絞ったのですが、どうしても医療のことが気になってしまう自分もいて。その後、どこで何が起きても対応できるスキルを最短で身につけたいと救急の道に進んで1年半が経ち、それなりに技術もついてきたところで、医療エピソードを軸にこの本の企画書を作り直したらすぐに、本にしたい、と言われました」

 本書の中に書かれているネパールの無医村やインドの山奥のシャーマンなど、世界の医療シーンには興味深いものがある。

「各国の医療現場に触れ、日本の医療が抱える課題を認識しました。ただ私、医者をしつつ違うことをしたいという夢もあって。旅と救急医療を経て、それらを結びつけることがしたいと思ってベンチャーコンテストにも応募しました。あと、今度は救急医療を軸にした本も書きたいんです!」

 次々に夢を叶えていく中島さんのエネルギーが、まぶしい。

ポプラ社 1,300円
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