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風神と雷神の配置の妙。俵屋宗達の魅力に迫る。

原田マハさんと行く京都美術散歩。今回は、無限の広がりを想起させる『風神雷神』の魅力を紐解くため、建仁寺へ。
  • 撮影・青木和義
俵屋宗達筆 『風神雷神図』建仁寺で観覧できるのは、デジタル技術を駆使した精巧な複製。 本物(国宝)は京都国立博物館に寄託されている。

「ある絵画を、美術史の流れで見た場合、先行する作品の影響がそこに認められるのが一般的なのですが……」

俵屋宗達の絵画にその見方をあてはめるのは難しい、と原田さん。

影響関係でわかりやすいのは、フランスの印象派の画家たちが日本の浮世絵に触発され、新しい表現を切り開いていったというエピソードだろう。

「ところが宗達の作品には、そうした先人の影響の跡が見いだせません。養源院の『白象図』や『松図』がそうです。たとえば『松図』に描かれた岩の輪郭と色彩は、物事の本質や矛盾を抉り出そうとした、20世紀初頭の前衛芸術運動・ドイツ表現主義に通じるものを感じます」

俵屋宗達の描く絵画は、当時の日本絵画の流れとは一線を画した独立峰のように思えてくる。

建仁寺が所蔵し、宗達の最高傑作と評される『風神雷神図』も例外ではない。現在、本物の『風神雷神図』(国宝)は京都国立博物館に寄託されている。建仁寺の本坊・大書院で鑑賞できるのは、デジタル技術で精巧に再現された複製だが、作品がもつ風格、独自性は充分に伝わってくる。

「風神雷神は、宗達以前から仏教美術のモチーフとして表現されてきました。宗達による表現の斬新さは、屏風全体に金箔を貼り、屏風の左右両端ギリギリに、それぞれ雷神と風神を配したことです」

こちらは、雷神と対をなす風神。屏風の右端に描かれることで、どこから飛びだしてきた のか、そしてどこへ向かうのか。無限の広がりを想起させる動的な絵。

金は、すべての色彩を受け入れ、あるいは際立たせる包容力をもち、年月を重ねても輝きを失わない化学的安定性から永遠を象徴する色でもある。

「そんな金地をバックに風神と雷神が屏風からせり出し、同時に、両者の間に生まれた広い金箔の空間が、緊張感をもたらしています」

この屏風には、宗達の筆によることを証明する款記も印もないが宗達の作品であることを疑問視する学説はない。

なぜ、雷神は白いのか? 理由を想像する楽しみ。

「もうひとつ注目したいのが、雷神の色。伝統的に鬼は、赤鬼、青鬼と呼ばれるように、赤と青で表現されていました。ところが、雷神の色は白です。なぜ、宗達は白を選んだのでしょうか。歴史的な背景を自分なりに調べ、その理由を想像してみると、美術鑑賞が、さらに奥深いものになると思います」

風神雷神が描かれているのは屏風だ。

「昔の日本の家屋は夏を旨としていて、風を呼びこむように作られていましたから、間仕切りが少ないんです。室内に屏風を置くことで、自分だけの空間をつくりだす。さらに、屏風で仕切られた背後に無限の空間を想像してみる。

寺社に結界があって、聖俗の空間を区別するように、日本の家屋は限られた空間を仕切ることで、さまざまな意味を持つ空間を生みだす、パーティションの文化なのではないかと思います。絵画が表現されている素材に着目するのも楽しいものです」

建仁寺俵屋宗達/風神雷神図(複製)。京都市東山区大和大路通四条下る小松町 ☎︎075・561・6363 拝観時間10時~16時30分(3月1日~10月31日)、10時~16時(11月1日~2月28日)。拝観休止日12月28日~12月31日。拝観料500円。

原田マハさん 作家●キュレーターとして活躍した後、作家に。美術をテーマにした作品も多く、『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞受賞。最新作は実話がベースの『デトロイト美術館の奇跡』。

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