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「福沢諭吉の『学問のすゝめ』」橋本 治さん|本を読んで、会いたくなって。

諭吉は筋を通さない人が大嫌いでした。

はしもと・おさむ●1948年、東京生まれ。’77年『桃尻娘』で作家デビュー後、小説、評論、古典の現代語訳等の創作活動を展開。近著に『国家を考えてみよう』(ちくまプリマー新書)、『いつまでも若いと思うなよ』(新潮新書)、『初夏の色』(新潮社)など。

撮影・岩本慶三

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」。有名な福沢諭吉の言葉だが、これが記された『学問のすゝめ』がどんな内容の書物かはよく知らない人が多いのでは?
橋本治さんも今回初めて同書を通読して多くの発見があったという。

「名著と呼ばれる本をこの年になって読むと、これまで思っていたことと違うことが多いんです。『学問のすゝめ』も最近では商売に役立つ実学書のように言われるけれど、ここで書かれているのは、政治に目を向けるために学問をしろということなんです」

全10回の講義録風にまとめられた今回の本は前半では発売当時の時代背景から『学問のすゝめ』に出る「自由」「独立」「分限」などの言葉に着目しつつ、橋本さんならではの視点で解説される。

「初編が出版された明治5年といえば新政府ができてまもないですし、まだ江戸時代と変わっていないことがほとんどなんです。福沢は留学して西洋を学んでいますから、それまで好き勝手と同義だった『自由』という言葉には、英語のフリーダムやリバティの意味を入れて『自由とわがままは違う』と当時の人には新鮮な解釈で紹介したり、わがままの境界線を考えるうえで『分限』という言葉を使ったりします。まだ近代化が進んでいない当時から、諭吉は今も通じる考え方をもっていたんだとわかりました」
『学問のすゝめ』は当時20万部のベストセラー書。福沢の考えはどう受け入れられたのだろうか。

「『学問のすゝめ』はひらがなも多く、ルビや句読点もある。語りかける口調でわかりやすく記されています。だから諭吉の考え方は理解できたと思うんです。ただ問題なのはそれを実践しようにも、時の政府には適応できる現実が用意されていなかったんです」

後半になると、そんな新政府への福沢の怒りが『学問のすゝめ』のなかでどのように展開されているのか。そして福沢が同書で「バカ」と罵る人物は誰なのかが解説される。今の日本の政治や社会状況にもつながることが、まるでミステリー小説のように示されていくのが興味深い。

「諭吉は筋を通すモラリストですから、新政府になって急に寝返った人や、誇りを持っていない人が一番嫌いなんです。実際に読みながら書き始めたので、そのあたりもすごくわかってきました」

巻末には初編が当時のまま記されている。橋本さんの講義を読んだ後にこちらを読むと、より福沢の伝えたかったことも見えてくるはずだ。

幻冬舎 1,200円
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