夫には上から目線で話されていると感じる担当医も、妻は「よく病室を覗いてくれて仕事熱心」と感謝している。微妙な感じ方の違い、人との距離関係が淡々と綴られている。
夫は、上司にも事情を話し、まめに面会に行く。結婚して15年以上になる夫婦だが、爪を切ってあげようか、というひと言が言えなくて逡巡する。また、夫が妻の世話をしていて、妻の母から「ありがとう」と言われ、「そうか、ありがとうと言われるのか。自分は妻にとって母親よりも遠い存在なのか」と違和感を覚える。人と人との距離はじつに繊細なものだと改めて気づかされる。
「死を目前にすると、周りの人はどっちが近い距離にいるのか競いあう気持ちがわいてくると思うんです。亡くなったあとも、焼香の順番がどうの、といったことに拘泥したりしますよね。それが人間なんだと思いますが、冷静に考えれば、どうでもいいことなんですよね」