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『北の富士流』村松友視さん|本を読んで、会いたくなって。

偉い人にならないところがすごいです。

むらまつ・ともみ●1940年、東京生まれ。出版社勤務後、執筆活動へ。1980年『私、プロレスの味方です』がベストセラーに。1982年『時代屋の女房』で直木賞受賞。『夢の始末書』『アブサン物語』『黒い花びら』『金沢の不思議』など著書多数。

撮影・森山祐子

第52代横綱として昭和の相撲界を支え、引退後は親方として千代の富士、北勝海などを育て、平成の今はNHKの相撲解説者として粋な着物姿で軽妙かつ辛口のコメントが評判を呼ぶ北の富士。彼の半生をたどりつつ、今につながる“人間味満開の男道”を多彩なエピソードとともに描いたのが30年来の交流がある村松友視さんだ。

「最近の相撲界では土俵での成績や数字ばかりが脚光を浴びますが、人間性やキャラクターとしての魅力がある力士がいなくなった。北の富士さんのような華やかさをもつ人間像はどう作られたのか知りたくなって調べてみたんです」

生まれ故郷の北海道の美幌、そして幼少期を過ごした留萌、旭川を訪れ、関係者の取材を重ねたり現役時代をよく知る元力士の話を聞く中で、村松さんが感じたのは北の富士の「負の札を正の札に裏返す」センスだという。

「北海道では一家での夜逃げなど普通の子どもなら暗さや影を帯びる経験をしても、北の富士さんは少年特有の遊びやスポーツを謳歌しながら仲間を楽しませる。逆境の時にも前向きで潔く生きるスタイルを子どものころから身につけていた気がします」

書名に「流」を付けたのには、相撲という“きわどい情をからめた真剣勝負”の世界で過ごすなかで北の富士が培った絶妙なバランス感覚に、相撲の枠を超えた男の生き様を感じたからだ。

「義理や任侠心を重んじつつ、北の富士さんはその時々で自分の力を発揮する時とだめな時を意識せずに使い分けていく。その分銅の振り方が鮮やかなのが、70半ばの今も見る人を飽きさせずに、現役でいられる理由だと思います」

著書では、北の富士のそんなエピソードとして、念願の大関になるも、出羽海部屋から独立して九重部屋を興す千代の山を慕い、破門も覚悟で移籍。独立後の場所では幕内初優勝で花を添えるが、その後の2場所は負け越してファンを落胆させることが記されている。

「北の富士さんのことを調べていると、まるで相撲の神様が普通の偉い人にはならないように導いているように思えるんです。理事長にもなれたと思うんですが、こういう人は相撲の面白さを伝えるほうがいいと、あえて偉くさせないようにしたんじゃないかな(笑)」

この本を読めば、男気あふれる北の富士の解説をいっそう楽しめることはもちろん、強さだけでは語れない相撲の魅力にも目がいくに違いない。

文藝春秋 1,600円
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