「私自身、元夫との離婚の直前、ああ、殺意ってこういうものかとリアルに感じた瞬間がありました。きっかけは、“お前には一人で何かするような能力はない”という、作中、咲季子に向けられる台詞とほぼ同じ言葉。私にとっての仕事の重みを一番理解しているはずの人がなぜそんなことを言えるんだろうって、サーッと血の気が引きました。元夫への恨みは消えても、その言葉は鮮明に残っています」
キッチンでの道彦との口論、殺意、そして……。小説の核となるこの場面の描写は、あまりに生々しく鬼気迫るものがある。
「フィクションとして描いていたつもりが、このシーンだけは、自分の中の片づけられていなかった問題がどんどん溢れてきてしまって、咲季子と重なった。彼女の感情や体験が自分の内側に侵食してくるようで本当にしんどかったです。ご飯を食べられなくなって、嫌な夢もいっぱい見ました(笑)」