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『パイドパイパー・デイズ 私的音楽回想録 1972ー1989』長門芳郎さん|本を読んで、会いたくなって。

音楽が持っている、魔法の力を信じますか?

ながと・よしろう●1950年、長崎生まれ。音楽プロデューサー、音楽雑文家。レコード店店長と前後してシュガー・ベイブ、ピチカート・ファイヴ等のマネジメントも手がける。監修したCD『BEST OF PIED PIPER DAYS』が発売中。

撮影・宇壽山貴久子

スマートフォンがあればいつでも好きな音楽が聴ける時代。音楽がより身近になる一方で、一枚のレコードを擦り切れるまで聴き込むような、濃厚な音楽体験は過去の話……。そんなことを考えていたとき、この本が出るのを知った。東京・青山にあった伝説のレコードショップ『パイドパイパーハウス』。その名物店長による回想録だ。

「伝説、といわれるとちょっと面映ゆいというか、僕はただの音楽好き。自分たちが好きなレコードを並べていただけですから」

そう語るのは長門芳郎さん。’70年代後半から’80年代にかけて同店の店長を務めた。田中康夫さんの小説『なんとなく、クリスタル』に店が取り上げられたころ、音楽は若者文化の中心にあった。

「渋谷だけで何十軒とレコード店があって、どこも活気がありました。情報も少ない時代だったからみんな自分の足でお店に行って、新しい音楽を探していたんですね」

パイドパイパーハウスはマニアックな品揃えで知られていた。売れ筋の人気アーティストより、ドクター・ジョン、ヴァン・ダイク
・パークスといった玄人好みのセレクト。ところが不思議な笛の音で子どもを誘う「ハメルンの笛吹き」のごとく、一度この店に足を踏み入れた者は、その音楽の虜となってしまった。扱うのはもちろんアナログレコードだ。

「レコードには手ざわりやにおいがあります。袋から出してプレイヤーに置き、針を落とす。A面が終わったらひっくり返す。手間はかかるけど、その一連の行為には、音楽をいつくしむ気持ちが込められていたと思います」

本書には長門さんと細野晴臣さん、故・大瀧詠一さんらミュージシャンとの交流も描かれる。日本のポップミュージック黎明期の貴重な記録であり、同時に、音楽と私たちの幸福な関係の物語でもある。

「レコードやCDといったパッケージの市場は縮小を続けています。でも一方通行のネットと違って、レコード店では新しい情報を教えたり教えられたり、相互の関係が生まれる。それが楽しいんです」

そんな空間を再現すべく、7月から渋谷のタワーレコード内に期間限定ショップを開いて、好評だ(’17年1月まで)。

「先日もアメリカから音楽ファンの親子が訪ねてきて感激してました(アメリカには、タワーレコードの実店舗はすでにない)。この機会に、若い人だけでなく、レコード店から足が遠のいている世代も、音楽の力を思い出してほしい。音楽があれば、生活がちょっと楽しくなるんだということを」

リットーミュージック 2,400円
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