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死んでほしいと願う妻にどう向き合うか。評・田中俊之|話題の本、気になる本。

『夫に死んでほしい妻たち』小林美希

朝日新書 780円

ここ最近、「馬車馬のように働くのが、夫のいいところ」と言う女性に立て続けに出会った。けなしているつもりはなさそうだ。この言葉の意味を辞書どおりにとらえれば、「他のことを考えたりしないで、一心に働く」夫を褒めているのだと思う。しかし、馬車馬とは本来、馬車をひく馬のこと。人ではない。家畜である。

学校を卒業し就職。仕事が落ち着いたら結婚し、定年退職するまで40年間働き続ける……。「まっとう」とされる男性の人生にどのような意味があるのだろうか。

しかし、馬車馬としてでも生きることを許されているのなら、我が家の夫婦関係はまだ良好な方だ、と夫は胸をなでおろすべきなのかもしれない。『夫に死んでほしい妻たち』では、育児に非協力的、女性のキャリアを軽んじている、など様々な理由で夫の死を願う妻たちのエピソードがふんだんに紹介されている。第1章の書き出しはこうだ。「お前、何やってんの!? ふざけんな、死ね!!」

死んでほしいぐらいなら、とっとと離婚をすればいいと思うかもしれない。けれど、著者の小林美希氏が的確に述べているように、現在の日本では女性が抱える共通の問題として、「どこに女性が経済的自立を求めても難しい状況」がある。子どもや世間体も気になるところだが、やはり女性の場合、経済面の問題が離婚したくてもできない主な理由になる。

多くの妻たちにとって、結婚を続けることが現実的な選択なのだとすれば、夫に変わってもらう必要がある。本書は現状のままで問題ないと考えている夫に灸をすえるには、うってつけの一冊である。とりわけ、働いてさえいれば家庭での役割は果たしていると勘違いしている夫には効果的だ。馬車馬のように働く以外に、妻に認められる方法が見つかるかもしれない。

たなか・としゆき1975年生まれ。武蔵大学社会学部助教。〝男性学〟の第一人者。共著に『不自由な男たち』(祥伝社)。

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