「勝山は今の時代ならさしずめタカラヅカの男役トップスターといったところでしょうか。『丹前』や『勝山髷』を考案したり、歌舞伎役者のような装いで町を闊歩しては町娘たちが後を追うなど、当時のファッションリーダー的存在でもありました。私も以前の仕事で宝塚歌劇団を担当したことがあったので、男装の麗人に憧れる女性ファンの気持ちがよくわかります。勝山に親近感を覚えたのは、そのせいかもしれませんね(笑)。
実はこの本を出した出版社のあるビルは、勝山が奉公していた江戸の神田四軒町雉町にあった、湯女風呂『紀伊国屋』のすぐ近く。偶然とはいえ、運命的なものを感じます」
冴えない長身の少女・お勝(のちの勝山)が、呉服屋の勘当息子・銀次から、芸事や立ち居振る舞いを磨かれ変わっていく様は、どこか映画『プリティ・ウーマン』を彷佛とさせる。しかし、ハッピーエンドのシンデレラストーリーとは違い、湯女の姉貴分・市野への思慕と銀次への恋心との葛藤が複雑に入り混じり、果ては紀伊国屋の繁盛を妬んだ吉原遊廓から嫌がらせを受けるなど、読んでいてハラハラさせられる顛末に……。