読む・聴く・観る・買う

歴史の沙汰も金次第と指摘する快著。評・門井慶喜|話題の本、気になる本。

『お金の流れで読む日本の歴史』大村大次郎

KADOKAWA 1,400円

 タイトルが内容をよくあらわしている。ふだんは政治とか戦争とかで語られることの多い日本の歴史を、あらためて「お金」という目で読みとくこころみ。著者は元国税調査官だから、やはり税金の話がシャープなようだ。

 たとえば日清戦争。なぜ日本が勝ったかを言うのに、この人は「国民の士気が高かったから」などと陳腐な見かたをしない。酒税を増税したからと見る。政府はそれまで売価の五パーセントが税金だったのを二十パーセントまで引き上げて、それから戦争に突入した。年間六百万円以上の増収。これでほとんど陸海軍の増強費がまかなえたというのだ。

 いちいち数字が具体的だから説得力があるが、著者はさらに、さりげなく、現代のビールには五十パーセント以上の酒税が課せられているとも付け加える。読者はいろいろ考えさせられることになる。歴史とは終わった過去ではなく、こんにちただいまの生活に直接つながる意見の材料にほかならないのだ。

 税金以外の話でも、この本はおもしろい話がたくさんある。日本最初の大金持ちは平清盛だ、というのは意表をつく指摘だし(それ以前はそもそも貨幣が普及していなかった)、廃藩置県のとき全国の殿様がほとんど抵抗することなく領地を政府にさしだしたというのも意外だろう。借金もまとめて引き受けてもらえたからだ。権利がほしくば義務も負うべし。語りくちの易しいのも読者にはありがたい。とにかく楽しく学べるのだ。日本がアメリカと開戦した理由については、ぜひ本文を。

 この本には、女たちの好きな「真実の愛」はない。男たちの好きな「風雲の志」や「英雄の決断」もない。ただただお金の話がある。でもほんとうは、お金なら、男女どちらも大好きなんですよね。

かどい・よしのぶ●1971年、群馬県生まれ。作家。いま話題の『家康、江戸を建てる』(祥伝社)など歴史物が多い。

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE