「『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』とか、『我輩は猫である』とか、有名な書き出しって、作品全体を読んでいなくても妄想の余地があるんですよね。最初は、そういった名作書き出しのパロディのつもりで始めた企画だったんですが、何回も作品を募集しているうちに、書き手の皆さんの目線が洗練されていって。書き手と受け手の共犯関係で完結する、新しい文学ジャンルなのでは、というのが徐々に見えてきました」
現在では、募集ごとに1000通を超える応募が来るように。
「いくつか理由はあると思うんです。もともと日本人は、短歌とか俳句とか、短い文章にそれ以上の意味を込めることが好きじゃないですか。文章に限らず、電化製品なんかも、小型化されたボディに多くの機能を見立てようとしますよね。また、小説とうたっている以上は、フィクションであることが前提ですから、俳句や短歌のようにものごとを写生しなくてもいいので、作品を作りやすいのも特徴ですかね。日常を見つめる目線を小説風にスライドすると、くだらないことが純文学風になる面白さがあります」