読む・聴く・観る・買う

『のっぴき庵』高橋洋子さん|本を読んで、会いたくなって。

50を過ぎたら友だちや仲間が大切ですね。

たかはし・ようこ●1953年、東京生まれ。都立三田高校卒業。’72年に映画『旅の重さ』の主役でデビュー。’81年『雨が好き』で第7回中央公論新人賞受賞。2017年公開予定の映画『八重子のハミング』では認知症の役に挑んでいる。2匹の猫と暮らす。

撮影・森山祐子

 年を重ねて、自宅では暮らせなくなったとき、あるいはひとりになったとき、どこで過ごすのが良いのだろうか。まず思い浮かぶのは老人ホームという選択肢だが、見ず知らずの他人との共同生活というのは、いったいどんな感じなのだろう。

 高橋洋子さんの『のっぴき庵』は、リタイアした役者だけが集まった老人ホームが舞台だ。

「スマートフォンに代表されるように、〝賢く生きる〟というのが今の主流でしょ? でも賢く生きられなかった人たちのドラマを描きたかったんです。不器用な人生を」

 物語は、55歳の富夫が、渋谷の道玄坂で、重カネというかつての知り合いである脇役俳優と偶然に会うところから始まる。仕事もお金もなく「生きる術がない」と嘆く彼をなんとかしたいと、富夫は役者だけの老人ホームを立ち上げることを思いつく。

「自由に生きられるかもしれない、そんな思いで俳優や脚本家を目指す人が多いけれど、仕事が来なくなったらおしまいです。最近は、ドラマや時代劇を見る人が少なくなってしまったから、年齢を重ねた役者の仕事は減ってしまったと思います」

 高橋さんは、作家でもあるが、19歳のとき、映画『旅の重さ』でいきなり主役デビューした女優でもある。NHK朝の連続テレビ小説『北の家族』のヒロイン役で、人気だったのを覚えている人も多いはずだ。

「ここに出てくる人たちは結婚もしないで夢中で役を演じてきた人たちです。役者って、役を演じているとき、我欲などなくなってしまうから、つい私生活の段取りを忘れがちなんですよね」

 のっぴきならない役者たちの集まりなので、ホームは「のっぴき庵」と名付けられる。脇役俳優の失踪あり、元女優の結婚騒動あり、昔の恋の顛末の打ち明け話あり、人間臭いドラマが次々と起きる。小気味いいセリフでぐいぐい引き込まれる。

「だれでもいつかは仕事や結婚、家族というステージから降りるときが来るんです」

 そのとき、どうやって生きていくか。仕事などを通じて知り合い、過去の思い出を共有できる仲間がそばにいたら楽しいのではないか。こんな老人ホームで過ごすのなら、人生最後まで捨てたものではないに違いない。

 遠いようで近い未来に思いを馳せていると、表紙の猫がじっとこちらを見ている気がした。

講談社 1,600円
この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE