放浪の作家と言われた檀一雄だが、家にいる限りは毎朝市場へ買い物に出かけ、家族や客人のために料理の腕をふるったという。
「この素材じゃなきゃ、とこだわるんだけど、それがないならこれでもいいと。その妥協加減が絶妙なんですね(笑)。だから、今作るならこの材料かな、と父の感覚を頭に描きながら再現しました」
『タンハツ鍋』はエッセーで描かれた昭和40年代には太郎さんが肉の卸問屋に行って豚の舌から腸までつながったものを買ってくる。晴子さんがそれをオカラと酢と塩で揉むと一雄さんがさばいて鍋に入れていた。
「晴子も初めのころはびっくりしてましたね(笑)。今の人には部位ごとのレシピにしています」
逆に五月の端午の節句に合わせて作ると書かれた『肉ちまき』は今も同じレシピで毎年作る料理だったり、エッセイに残していなかった檀家の定番料理だったビーツのサラダも初紹介している。
「父が〝ポーチ(?)という木の実を使っているので美味しい〟と書いている台南風玉子焼きも再現しました。台湾の方からポープーツー(破布子)という木の実があると聞いて、台湾に飛びました。確かにこの木の実を使うと料理は抜群! 父が謎のまま記したことを解明して作れたのは、親孝行ができたかなと思っています」