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つい街に繰り出したくなる一冊。評・宮田珠己|話題の本、気になる本。

『街角図鑑』三土たつお編

実業之日本社、1,500円

 街歩きをどこまで楽しめるか、というテーマを極限まで突き詰めたらこうなるという、もはや常識的な面白さを通り越して、どうかしてるんじゃないかとつっこみたくなるような路上観察のバイブル的一冊。

 マンホールの蓋を見て楽しむ人がいるのは知っていたけれど、車止めとか、段差スロープとか、カーブミラーとか、しまいには電柱の上のほうにあるバケツみたいなやつまで見て歩くとは、いったいどこまでいくんだ路上観察。

 それでも、こうして一覧にされると、それぞれの細かい違いを面白く感じはじめている自分がいて怖い。

なんなんだろう、この胸騒ぎは。

 なかでも私が注目するのは路上園芸だ。住民が家の前に置いている植木鉢や、舗装の間に勝手に生えている草など、街角のすきまを縫うように存在するそれらの植物は、ときにたくましく、ときにはかなく、あるときはユーモラスに、またあるときは不気味に街を彩っている。

 そこに着目して歩き出せば、見慣れた街が、が然面白くなってくるというのだが、ああ、やばいよ、誘惑するなよ、さすがに電柱の上のバケツはどうでもいいけど、路上園芸ハマりそうだよ。

 気がつけばツイッターで、インパクトのある路上植物の写真をアップしていた私だ。

 このところ、日本や世界各地の絶景を紹介する小ぎれいな本がブームだけれど、その一方で、こうして絶景とはほど遠い路上を楽しんでいる人たちがいる。

 貧乏くさいと言うなかれ。一度見たら満足する絶景にくらべ、もっとないのか、とついつい街に繰りださせる路上のパワーは、たぶん人間の本能に根差している。

 見慣れた世界を刷新したいという人間の本能に根差しているのだ。

みやた・たまき●作家。旅をテーマにしたエッセイや旅行記を執筆。近著『日本全国津々うりゃうりゃ』(幻冬舎文庫)。

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