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「13人の誤解された思想家」小浜逸郎さん|本を読んで、会いたくなって。

虎の威を借るのはそろそろやめよう。

こはま・いつお●1947年、神奈川生まれ。批評家。国士舘大学客員教授。隔月刊誌『表現者』の連載「誤解された思想家たち」で、現在は日本の思想家について探究している。最新刊『デタラメが世界を動かしている』(PHP研究所)など著書多数。撮影・武方賢治

 初めにプラトン、その次がイエスと、西欧の名だたる思想家13人が取り上げられている。入門書的に解説しておしまいになりそうな錚々たる顔ぶれだが、著者の小浜逸郎さんは以前『なぜ人を殺してはいけないのか』というタブーに関する本で、違和感や問題意識をうやむやにせず率直に筆を振るっていた。西欧思想の巨人たちも、丸裸にされるかも?  案の定、プラトンは「哲学史上最大の詐欺師」と呼ばれ、イエスは「社会秩序に対する天才的な反逆者」として、一般のイメージと少し違う評価になっている。13人みんな見え方が変わる。

「そこが彼らの誤解されている点です。特にプラトンは身辺の物事を抽象化するのが巧みで、異性への愛と真理への愛を同じものだと論じた結果、〝善のイデア〟が至高だと証明してみせます。論理的には正しく思えるのですが、我々が異性を愛する

のと、正義とか善を愛するのは、同じ愛という言葉に抽象化できるのか。質が違うからできないと思うんですよ」

 抽象化された概念が至高のもので、肉体は低い存在だというプラトンの思想は、キリスト教と結びついて2000年にわたり西欧の価値観の根底になっている。

「プラトンの哲学はキリスト教の神学の柱になっています。神学は巨大な体系となって教会の権威を支えていますが、救世主とされるイエスの言行を聖書でたどると、権威の破壊者としての顔が随所に見受けられるんですね」

 プラトンもイエスも誤解されている。誤解されたまま権威として定着していて、全体像や真の姿が見えにくくなっている。

「近代は西欧の文明が強かったので、西欧のものの見方や考え方が普遍的だと思われてきた。実際に西欧の論理や思考には優れた点が多いんですよ。それは認めるべきだけれど、ちょっと待って。他の考え方もある。西欧の言語体系では浮かび上がらないけど、こっちから指摘すれ

ば彼らが普遍的だと思っていることを相対化できるかもしれない。西欧の思想家の傾向を知ることで、日本人の世界観や、ものの感じ方を世界に伝える役に立てばと思うんです」

 確かに、近代から現代にいたる西欧の思想家たちのものの考え方、感じ方には、この本を読むと一定のパターンがあるように思われる。日本人にもパターンはありそうだが、そこに無頓着だから国際発信で裏目に出やすいのかも。

「日本の思想をちゃんと掴んで、翻訳できる論理的な言葉で表現するのがこれからのテーマです」

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