食を通して子どもの独創性を育む、
ユニークな英語スクール。
ジョエル・ロブションなど名シェフの賛辞を受ける食の歳時記『japanese farm food』の著書、ナンシー八須さん。今回は彼女が園長を務めるスクール「サニーサイドアップ!」へ。訪れたのはちょうど昼食の時間。子どもへの食事にも一切のショートカットをしないというナンシーさんは、味噌汁作りは昆布と鰹節で丁寧にだしを取るところから。できた味噌汁は本物の漆椀で出すのです。そこには、食を通して子どもの独創性を育むヒントがありました。
「今日は生姜焼きサンドイッチとお味噌汁ですよ、みんなうれしい?」
ナンシーさんが大きな声で英語で訊ねると一斉に「イエース!」と子どもたちが元気な声をあげた。
ここはナンシーさんが2001年につくったキンダーガーデン「サニーサイドアップ!」だ。そう、ナンシーさんのもう一つの顔は、食を通して子どもの独創性を育むスクールの園長なのだ。
「うちでは英語だけで会話をするのがルール。そして、毎日私が作るランチを食べます。もちろん全部、有機の野菜や調味料で作っています」
広々とした区切りのない部屋に、子どもたちが折り紙をして遊んだり、食事をする大きな木のテーブルが2つ、その隣には真っ青なタイルが鮮やかなキッチンスペースがあります。
大きな木のテーブルに、コンロを出して、銅鍋に昆布を入れ、火にかける。それから、テーブルをいっぱい使って、サンドイッチ用の食パンを並べていく。鍋の水がぐらりと動いたところで昆布を取り出し、鰹節を加える。それから、また食パンに戻り、一枚一枚、マヨネーズを塗っていく……。
自宅で家族に料理するのと同じように、陶器の片口をボウルにして、重いけどよい味が出る鉄鍋を使って生姜焼きを作る。きちんと取っただしで味噌汁を作る。やはりショートカットは一切ない。丁寧に、真摯に、いつものやり方を崩さない。
たっぷり1時間はかかって、料理が完成しました。子どもたちは夢中で味噌汁を飲み、サンドイッチにかぶりつく。一番のお楽しみの時間だということは、その笑顔を見ていればわかります。
子ども用の小さな漆の汁椀に注がれた味噌汁を一杯、相伴にあずかりました。胃の腑に染み込むような、深く優しい味わいにほっと気持ちが和らぐ。
本当にいいものは、きっとすぐにはできない。時間も手間もかかる。子どもたちは、毎日毎日繰り返し料理を作るナンシーさんの傍らで、そのことを学ぶのでしょう。自分からその手を動かしたとき、真においしいものは生まれるのです。
◎ナンシー・八須さん/米国・カリフォルニア州出身。スタンフォード大学卒業後に来日し、農家の八須理明さんと結婚。キンダーガーデン「サニーサイドアップ!」主宰。近著に『スタンフォードの花嫁、日本の農家のこころに学ぶ』(日本文芸社)、洋書『preserving the japanese way』
『クロワッサン』915号(2015年12月25日号)より
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